K’sファイルNO.101:米国大学競技スポーツと筆者の基軸

K’sファイルNO.101:米国大学競技スポーツと筆者の基軸

無断転載禁止           注:K'sファイルは、毎週木曜日掲載予定

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中編:日米大学競技スポーツの環境と現実

1.日米の学生、学生選手の生活環境の決定的な相違

①学生の授業料と教職員のペイメント

米国の大学に於いては、基本的に3カ月の夏季休暇が在るのが伝統的スクールカレンダーです。既にK’sファイルの読者の皆様は、日米の雇用制度が大きく異なる事をご説明致しました。それに伴い、個々の責任の所在も明確になっている事が挙げられます

筆者自ら学生、教員、指導者、運営・管理者としての体験、経験を通して感じます事は、この3カ月間の休暇は、学生、指導者にとっては大変貴重な期間である事です。それは、米国の学生、学生選手の約75%が授業料、生活費を自ら働いて得ているという伝統的な慣習がある事に起因します。授業料は、年間一括でも、学期毎でも、極端に言えば科目単位でも納付可能なのです。本件に付きましては、「アカデミックとルール」のテーマで述べる予定です。

もう一つ重要な事は、大学を卒業して社会人なるために、社会への適応、適合の準備期間として夏季休暇3カ月の4回分はとても有益で、社会での学びの場ともなっています。また、全教職員にとっては、この3カ月間は、無給で在る事が契約書に明記されています。よって彼らは、この期間は自由に就業する事が認められ、生活の糧を得る事が出来る事も明記されているのです。読者の皆様はご存知でしたでしょうか

我が国の学生、学生選手は、読者の皆さんもよくご存じの生活環境であり、昔も今もそう大きな違いはありません。それは、大多数の大学生達は授業料、生活費、部費を父母が負担している事です。また、教職員は、給与を12カ月得て年2回のボーナスが支給され、夏休み期間中も給与が支給されているのです。

よって、夏休みは、本来夏季休暇ではなく、他の仕事をして糧を得てはいけないはずなのです。このような理屈から、教職員は、部活の面倒を見させられていると解釈するなら、それも業務であると理解可能です。読者の皆さんは、この解釈から致しますと日本の教育機関の教員そして一部職員が部活の面倒を見ているのは彼らの業務(夏季休暇中も有給でペイを受けている)と理解する事が出来るのではないでしょうか。

このような制度と実態の違いを、日本に於いては全く紹介も報道もされないで、ただ単に米国の大学、大学競技スポーツ、NCAAといった具合に夢のような話題のみが報道の対象になっている様に思われます。このような情報は、このK’sファイルが初めて情報公開をしているのではないでしょうか。

②日本の大学競技スポーツとNCAAの基本的な相違

NCAA(全米大学競技スポーツ協会)が、日本の大学競技スポーツと大きく異なる点は沢山ありますが、その中でも代表的なのは「競技スポーツがシーズン制」で、競技種目ごとに決められたシーズン期間が設定され、それ以外は練習も試合も認められていない事です。シーズン以外は、テイーム練習や指導者の指導を受ける事が出来ず、施設は自主トレーニングとしてのみ使用可能です。

ルール違反者は、NCAA(全米大学競技スポーツ協会)のルールに従い厳しい罰則が待ち構えています。また、学生選手達は、シーズン制なので複数の競技スポーツに登録、出場が可能で有能な選手は、複数の競技を兼務する選手もいるのが日本とは大きな違いです

このシステムは、一つの種目に偏らず、秋、冬、春の競技スポーツを経験できることにより、その学生選手が最終的にどの競技スポーツを選択するのか中学、高校時代からこのシステムの中で育って来ているので、大変合理的且つ、賢明なシステムであると筆者は現場で指導してきた経験からも感じます。

幼少期から競技スポーツへの興味を絶やさない手法であり、傷害から身を守る意味でも賢明な制度でありシステムであると思います。また特定の競技スポーツのみしか登録していない学生選手は、オフシーズンに於いては学業に集中、自主トレーニング、仕事による生活の糧を得る時間に当てています。

2.NCAAルールブックは契約社会の掟

①全米加盟大学共通のNCAAルールブックの存在

そして次なる重要なポイントは、NCAAには加盟大学共通共有の「NCAAルールブック」が存在する事です

日本では、20193月に大学スポーツ協会(略:UNIVAS)なる組織・団体が発足しましたが、実質的な中身は皆無です。ルールブック(規則・罰則)も無い大学スポーツ協会への賛同を求め、加盟の意思表示をされた大学は、いったい何を根拠に加盟申請をされたのでしょうか。これは、素朴な疑問です。

加盟申請した大学は、先導役が文科省スポーツ庁)なので、私学助成金補助金の影響を受けるのではないか、或は、加盟すれば何か新たな補助金助成金が得られるかもしれないとの思いからかも知れません。大した確固たる根拠が在って加盟申請を出したわけではないと推測致します。

加盟の意思表示をされなかった大学もあるようですが、その大学は、とても賢明な判断であったとスポーツ・アドミニストレイターの視点から申し上げます

我が国の現在の状況と実態から致しますと、大学スポーツ連盟の発足を発表するに当たり、全加盟大学は、同じルールブック(罰則・規則)の下、フェアネス(公正、公平)の原理原則を約束する明文化された証しが在って初めてその確たる根拠と成り得るのではないのでしょうか。明文化の後に各大学に賛同を求める申請書を配布し、加盟への判断を仰ぐことがスポーツ・アドミニストレイションの基本作業であると思います。既に現在、スポーツ庁より発表されている加盟大学、大学数は、申請をしただけで同意をしたわけではないのです。

この様に政府機関が直接的に先導して、根拠のない協会加盟申請書に「踏み絵」をさせる様な方法は、如何なものでしょうか。お上の権力を持ってして、加盟を強制するやり方では、継続しないように思えてなりません。また加盟校が自立した競技スポーツ部を統括管理できるようになる迄には、気が遠くなるほどの年月がかかるのではないでしょうか。

NCAAに加盟している大学は、NCAAのルールブックの下に競技の規則・罰則のみならず、学生選手の学業から生活面に渡り、また指導者のコーチング並びに運営、管理に至るまでルールを遵守する義務と責務を負う事になります言い換えられば、NCAAオフィスから委託を受けているという理解と表現が正しいかと思います。

片や日本に置いては、このような統一された規則・罰則は無くアンフェアーな状態に於いて、学生競技スポーツが行われている次第です。

②アカデミック(学業)とNCAAルールの共存

米国の大学生は、①フルタイム学生(Full time studentと②パートタイム学生(Part time studentに区別されます。フルタイム学生の定義には、卒業単位数の四分の一を各学年で履修取得する学生が条件の一つに挙げられます。勿論、有能なフルタイム学生の中には、3年間で卒業単位を確保、学位を取得する学生達もいます。

筆者が教員を務めた経験からすると、日本の私学では、優秀なゼミ学生が3年で卒業単位の124単位を取得しても、4年目の授業料を納付、在籍しなければ卒業証書、学位を出さないという露骨な大学、経営者もおり、呆れて言葉も出ませんでした。読者の皆さんは、如何でしたか。此れでは、学生ファーストであるべき学生達を大学経営者は集金マシーンとしか考えていないように思えてなりませんが・・・?日本の他の私学もこのような集金制度を取られているのでしょうか。もしそうであるなら文科省は、私学の学生達を集金マシーンと考えて大学設置基準を経営者有利に定めているのではないでしょうか。このような大学の経営、管理規則は、決して在ってはならない事だと強く思います。これは、学生とは何を持って学生であるかという、そもそもの定義も明文化されていない事に繋がっているのかも知れません。

NCAAルールとアカデミック・ルール

NCAAのルールでは、先ず学生選手(Student Athlete)は、このフルタイム学生である事が大前提なのです

パートタイム学生とは、何らかの事情、理由でフルタイム学生に成れない事を意味し、毎年、毎学期、履修登録する科目数だけの授業料を支払う学生の事を指しています。但し、外国人留学生は、フルタイム学生として毎学期の履修登録単位の取得、授業料の支払いが義務付けられています(移民局の規則にも関係)外国人学生選手には、一般留学生と同様な規則にNCAAルールが加算されます

筆者の経験では、このパートタイム学生の殆どは生活の糧となる仕事を最優先している学生達が殆どであります。勿論、授業料を支払う能力が在れば、既に本学のアドミッション(入学許可)を受けているのでどの学期からでもフルタイム学生になれます。日本もこのシステムは、是非真似て欲しいと日本の大学教学の現場で感じました

毎学期履修登録した全科目は、学生選手にNCAAによって定められたGPAGrad Point Average:履修登録された全科目の成績を数値化した平均値)数値以上の成績を確保維持しなければ、シーズンの大学対抗戦のロースター(出場選手登録)入り、試合の出場が出来ないのです

例えば、日本の大学に於いて、本ルールを適応致しますとテイーム競技は、選手が足りなくてテイームが編成できなくなる事態が必然的に起きると想定されます。

近年日本の大学は、文科省の指導により本GPA制度を米大学に倣い採用していますが、この制度を実質有効活用できていません。その理由として、一つは、各大学の学業の格差が余りにも大きすぎるからだと思います。また文科省の指導により毎年行っている授業アンケート調査を学生達に無記名で行わせ、授業に興味も出席もしないいい加減な学生達にアンケートに回答をさせ、業者に集計を委託して結果は殆ど反映されていません。これでは、米国大学の模倣にしか過ぎないのです。

NCAAの公式戦出場ロースター(登録)にリストアップされた学生選手は、毎試合前日の決められた時間帯に出場選手のアカデミックな現状確認を行い、NCAAオフィスの専門部署にPCを通して報告する義務がありました。 小生は、大学に於いてこのNCAAルールの担当も兼務させられていましたのでその責務は大変重く、非常なストレスとなった次第です。

近年日本から学生選手が複数名、米国の大学で学生選手として登録されて参加されていますが、これはNCAAルールの外国人選手へのアカデミックなルールが少し緩和されて来ている事が大きな要因の一つとなっています。しかし、卒業できるかどうかは、別問題です。また、採用している大学周辺からは、リクルートへの疑念が囁かれているのも否定できないようです。日本の私学のような入学前の「お約束」などとは勿論別の話であります。

これは、大学競技スポーツが教育の一環で在りその延長線上に位置している事を明確にした重要なルールと関係しております。学生選手の根幹となる“学生とは”の定義(Definition)です

これは日本の学生競技者及び大学教育機関には全く欠落している部分です。日本の大学教育機関は、大学及び、大学生、学生選手とは、について何を持ってその資格認定をするかの定義(Definition)が教育基本法に於いても明記されていないので、先ずはこの基本的な重要な問題点を明確にし、明文化する必要があります。その上で全大学の教育機関及び、学生、学生選手の自覚と経営者、管理者の規則遵守が大学スポーツ協会の発足以前に必要な最重要な大前提ではないのでしょうか。

筆者は、常にスポーツ界は自由で平等で、公正、公平の原理原則を貫けるリーダーが真のリーダーであると確信しています

文責:河田弘道

スポーツ・アドミニストレイター

スポーツ特使(Emissary of the SPORTS

 お知らせ:読者の皆様は、日米の大学競技スポーツの違いを少し感じられますか。次回は、このルール違反者に対する処罰が大学、NCAAでどの様に処理されるのか、等を合わせてお伝えできればと思います。また、筆者は、大学代表テイームに帯同する旅先での多くの人達との出会い、関係にも最終章で触れてみたいと思います。