K'sファイルNO.114:賛否両論の日本野球の伝統と美学

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K'sファイルNO.114:賛否両論の日本野球の伝統と美学

無断転載禁止            K'sファイルは毎週木曜日掲載予定

K'sファイルからのお知らせ:K’sファイルでは、今日まで高校野球をテーマにした事は在りませんでした。筆者は、国民的な話題として論争が巻き起こり収拾が着かない現状を察し、読者の皆様に知識と認識を新たにして頂く事を目的に本論争の視点をスポーツ・アドミニストレイターとして、また、ベースボール・アドミニストレイターとして交通整理をしながら、複数の異なる角度から、事の次第を解りやすくご説明できればと考えております。

第一弾:伝統の美学を継承する野球人達

目次

I. 張本勲氏は何故バッシングされる

  ①本件の概略

  ②問題の元凶は何であったか

  ③同番組コメンテイターの張本氏は何を語ったか

  ④何故1コメンテイターが矢面に

  ⑤野球人張本勲氏の野球観は

Ⅱ.筆者の素朴な疑問

 

Ⅰ.張本勲氏は何故バッシングされる

①本件の概略

2019年第101回の全国高校野球選手権大会は、8月6日に甲子園球場で開幕されました。本大会を目指して全国各都道府県では、代表権争いが繰り広げられ、その中でも特に注目を浴びていたのが岩手県の代表決定戦でした。

本代表決定戦は、7月25日に私立花巻東高校 対 県立大船渡高校の間で行われました花巻東高校といえば、読者の皆様の中にはご存知の方が多くいるかと思われます。西武ライオンズに所属し、現在はMLBシアトル・マリナーズに移籍している菊池雄星投手、日ハムファイターズに所属し、現在はMLBのカリフォルニア・エンゼルスに移籍し活躍している大谷翔平選手・投手の出身校です。片や、大船渡高校は、本年度高校生投手として超注目度の高い佐々木朗希(ろうき)投手を擁するテイームで予選を勝ちあがり、晴れて岩手県代表を賭けて決勝戦に臨んだのでした

本決勝戦は、TV、マスメデイアを通して日本全国の高校野球ファンのみならず、国民、社会の注目を浴びる地方大会で球史に残る論争を巻き起こした試合となりました。その主役は、高校球児として最速163キロと言う超スピードボールを投げる佐々木朗希投手(3年生)と同校監督の国保平氏(32歳)です

本第一弾では、本件の論争に油を注いだ元プロ野球選手の張本勲氏(現:TBS 日曜日、通称サンデーモーニングのバラエテイー番組のコメンテイター)の暴言に近い私的見解がTBSという公共の電波を通して野球ファン、視聴者、社会、国民に発信された事を取り上げたいと思います。

しかし、本論争は、或る意味において夏の高校野球大会に対する異論はあっても、正面から問題を実践で提起された事は在りませんでした。それ故に、この度の本件は、大きな障壁に風穴を開けた事になるかも知れません

この張本氏の問題発言とされるポイントと内容を取り上げる事により、読者の皆様には問題の本質とその視点がよりフォーカスできるかと思われます。筆者は、この張本氏に対するバッシングを生きた教材とさせて頂き論争の真意と問題点を探って参ろうと思います。

②問題の元凶は何であったか

問題の概略を説明しますと、最大の焦点は注目の主人公であります大船渡高校のエース佐々木朗希投手が岩手県大会の代表決定戦に先発せず、ベンチで控え選手として試合終了を迎えた事でした。このゲームは、2対12で大船渡高校が敗退しました。

ここでの問題点は、大船渡高校の国保陽平監督は、「何故佐々木投手を先発させなかったか、何故最後まで決勝戦で打者としても投手としても出場させなかったか」という点です。これが問題の元凶になっている事を先ず整理致しましたまた、此処にサブテーマとして掲げました、「張本勲氏は何故バッシングされる」は、上記世論の批判を背にTBSの同番組のコメンテイターの張本氏がご自身の私的見解に感情を込めて同監督と同投手を辛辣な言動と表現で独善的に公共の電波を使用して撒き散らし、論理的な解説が欠落していた事だと思われます。

③同番組コメンテイターの張本氏は何を語ったか

此処で筆者は、張本氏の言動に付いてとやかく述べるつもりはありません。張本氏には、言論の自由が約束され法により守られているからです。同氏のコメント内容を整理致しますと以下の通りです。

コメント内容:7月28日、日曜日、TBSサンデーモーニング発言より

1)最近のスポーツ界でね、私はこれが一番残念だったと思いますね。

2)32歳の監督でね、若いから一番苦労したと思いますね、絶対、投げさせるべきな

       んですよ。

3)前の日にね、129球投げてますからね。大体、予選で4回しか投げていないんで

       すよ。合計で430,450球くらいしか投げてないのよ。

4)昨年、吉田輝星(金足農校)が800球くらい投げているんですよ、1人で。

5)監督と佐々木君のテイームじゃないだから。ナインはどうしますか?一緒に戦って

      いるナインは。1年生から3年生まで必死に練習してね。やっぱり甲子園は夢なん

      ですよ。私は夢が欲しくてね、小雨の路地で泣いていた事が在りますよ。2年生も

      1年生も見ているんだから。

6)最後に言いたいのは先発させてナインに「早く点を取ってやれよ、3点でも5点で

        も」と。そしたら代えてやることもできるんだから。先発させなかったのは間違い

         だったと思いますよ。

7)彼は(国保陽平監督)、アメリカの独立リーグに居たんですよ。アメリカ流に考え

        ているんですよ。アメリカは(投手の肩や肘は)消耗品だと思っているから。日本

        は、投げて投げて力を付ける。考え方が全然違うんですよ

8)ケガが怖かったら、スポーツは辞めた方がいい

9)将来を考えたら投げさせた方がいいんですよ。苦しい時の投球をね、体で覚えて大

        成した投手はいくらでもいる。楽させちゃダメですよ、スポーツ選手は。

10)ケガをするのはスポーツ選手の宿命。痛くても投げさせるくらいの監督じゃないと

        ダメ。

張本氏の発言内容は、彼が歩んできた人生観、野球観を凝縮した内容であったと理解します。この言動は、少なくとも40年以上前の社会、スポーツ、野球界の環境で在りましたら、何の問題も批判も受けなかったのでないかと思われます。しかし、近年は、グローバルなスポーツ社会の近代的な指導理論、そしてその科学的な分析等を含めた情報、資料がマスメデイア、特にSNSにて情報が氾濫している時代です。よって、この度のような論争に於いても、コメンテイターの張本氏、番組デイレクター、プロデユーサー、関係者より遥かに一般社会の視聴者、ファンの方が近代的な知識を多く担保している事も論争が留まるところを知らない要因であると考えられます。

筆者は、21世紀になった今日上記のような本件に関するコメントをさせたTBS情報リテラシーに問題があったのでないかと思う次第です

それは、同コメンテイターが本件に対する十分なコメント内容とその対応能力がともなったコメンテイターであるか否かが問われていると思われます。読者の皆様は、どのように受け止められているでしょうか。この件に付きましても、これから問題の本質が何処にあるのかを具体的に述べさせて頂きます。

読者の皆様には、個々の知識を総動員して頂きながら問題とされるパズルの抜けた箇所に、K’sファイルから得た資料と知識のピースをインプットされる事により問題のパズルは完成する事が出来るかと思われます。但し、人は、十人十色と申しまして、人それぞれの思考、キャリア、境遇、等により感受性が異なる事も念頭にしてお考え下されば幸いです。

今日の競技スポーツ界は、現代スポーツ医科学の進歩と発展により、我々の理解を遥かに超えた次元に位置している事を認識する必要があります。即ち、日本野球界の医科学的知見と先進国のベースボールのその差がそのまま指導者、管理者達の専門知識の差に等しいと思われます。読者の皆様は、この事を少しだけ心の片隅に持たれてご笑読下さい。スポーツ医科学は、時として我々の夢も感情をも壊すリアリテイーという怖い現実を突きつけられる事もご承知おき下されば幸いです

④何故1コメンテイターが矢面に

異なる視点から~私は同氏のこの度の発言は、お気の毒とさえ思う次第です。

番組で指摘した張本勲氏には、責任が伴うか

何故なら、彼はTBS、番組コメンテイターとしての出演契約により報酬を受けています。しかし、彼は、本番組で本テーマを与えたのは番組編成、制作担当責任者であり、プロデユーサー、デイレクターが発言、内容を同意していると理解できるからです。番組責任者は、彼にその専門知識、経験が伴うかどうかも契約者側が十分承知していて、他の芸能タレントさんと同様なスタンスでレギュラー出演依頼している筈です。

筆者は、張本氏の発言内容に対して今更のように騒ぐ事自体が問題なのでないかと思う次第です。何故ならば、張本氏は、本番組に置いて長期に渡り前任者(大沢啓二氏)の後を受けて元来はプロ野球に関してのコメントから始まり、今日ではマルチスポーツのオーソリテイー(専門家)の如くのコメント、批評、批判を我が物顔でされているのはご存知の通りです。しかし、彼のコメント、表現は、番組MCのリードにより殆どが根拠のない、いわば暴言的な発言、表現をされているケースを多くお見受け致しております。筆者は、本番組を毎週拝見しているわけでありませんが、あまりレベルの高い内容の番組コンテンツでないと理解致しております。多分局の本コンテンツは、日曜日の午前中に視聴率を取るため、視聴者層から笑いを取る番組と考えた方が分かりやすいかも知れません。

★問題の本質

公共電波を預かる民間テレビ局は、特にバラエテイー番組が段々と過激で劣悪になってきている様子がこの度の本件に付いてもその傾向が大であると思われます。問題の一つとして、この類の番組では、常に善人と悪人を両サイドに擁立し、悪人をより悪人に見せるための取材、演出を徹底した手法を取っている所です。善人は、大切に常に擁護し、悪人は誰だと言わんばかりに攻撃をする、これほど劣悪で陰湿な演出方法に至っているのに視聴者、番組審議委員は、気付かないのでしょうか。

 この事は、数年前から日本国内で起きているスポーツ界のパワハラ体罰と称する暴力不祥事に対するマスメデイア、特にこの類のテレビ番組にはマスメデイアの情報発信による視聴者、国民、社会へのモラルハザードに起因していると強く感じるのですが如何でしょうか。

番組制作側に問題はないのか

この度、視聴者、他のマスメデイアが張本氏のコメントの揚げ足を取っているのは、TBSの7月28日、日曜日の定番となっている「サンデーモーニング」という番組の中で、7月25日の大船渡高校の佐々木投手が代表決定戦で出場しなかった事に対する社会的、国民的な論争が巻き起こり、この話題性からマスメデイアは商品として話題をファイアーアップする為にさらに過激な話題を取り上げ商品をチューンナップしているのでないかと推測致します

商品価値を高めるための一つの手段、方法として、都合よくTBSの本番組で張本氏という特異なキャラクターを仕立て上げて、さらなるバッシングを浴びせてこのコンテンツをビジネスに生かそうとする思惑がちらついている事に読者の皆さんは気付かれていますでしょうか。

これは、丁度過去に於いてスポーツ界の暴力事件をマスメデイアが社会、国民の心情、感情を逆手に取り問題の本質を語らず、善人と悪人を立ち上げ、悪人を徹底的にバッシングする事により問題の本質からは離れ、唯ひたすらにマスメデイアのミスリードに視聴者、社会、国民は気付かず、引きずられて行き本来の問題の本質に蓋をしてしまう。関係者達には、遺恨だけが後に残骸として残る手法である言わば芸能界スキャンダル報道手法と申し上げた方が理解し易いかと思われます

これはまた、TBSに於いても同様な手法が取られているのかも知れません。それは、番組の性格上番組プロデユーサー、デイレクターは、コメンテイターの張本氏の性格からも事前に何を喋るか、喋って頂くかの打ち合わせ、すり合わせは当然行われている筈なのです。張本氏が番組で張本節をさく裂させ徹底的に大船渡高校の国保周平監督をバッシングする事も想定内であったはずです。

張本氏の国保監督を悪者に仕立て上げたコメント内容には、論理的な根拠が皆無で在り、同氏が野球界で得た野球観を表現したまでであり、本件のコメントとしては成立していない所にバッシングの真相、深層が在るのではないでしょうか。張本氏がTBSの番組コメンテイターとしての資質を問われる事に至ってしまった理由が此処にあると思われます。果して、本番組を支えているCMスポンサー達は、視聴率さえ確保すれば良しとの考えなのでしょうか。

⑤野球人張本勲氏の野球観は

張本氏は、1959年日本プロ野球東映フライヤーズ球団に入団、1973年日拓ホームフライヤーズ、1974年日本ハムファイターズ、1976年東京読売巨人軍、1980年にロッテオリオンズに入団して1981年に現役選手を引退された、名実ともに実績を残された外野手でした。

張本氏の野球イズムが炸裂したか

張本選手が野球界、プロ野球界に在籍していました状況、環境を少しフラッシュバックして見てみましょう。

1945年終戦、その後間もない時代に既に日本プロ野球は、創世記を迎え苦難の歴史とともに歩み、現在に至っています。多くの子供達は、野球という新しい夢と希望に向かって心を弾ませ皆プロ野球選手に憧れ、一画千金を夢見て子供も親も関係者もが、野球選手に憧れていた時代です。高校生は甲子園を目指して、そしてその後はプロ野球選手、読売巨人軍阪神タイガースを目指して野球小僧達は、夢を野球に託した時代であったのです。勿論張本少年もその極め付きの人生を歩む事に成ったのだと思われます。

当時の野球選手達の練習は、99%が指導者による強制的な指導体系が主体で、指導者側の一方的な押し付け指導と申し上げて過言でありません。

例えば、投手は、毎日200球投げ込む事を理想とし、打者、野手は、1000本ノックを受け、練習中の水分補給は御法度、夜が来ると打者は1000回スイング、投手はシャドウピッチング、そして練習後は、使用した肩、肘を冷やさないようにと年中毛糸で編んだ肩当、肘当を使用し、それらは市販されていたのでした若い世代のマスメデイア、選手達、指導者達には、信じがたい非生産的な日本野球の伝統を背負ってきた経過と歴史が在る事を否定できないのです(現代スポーツ医科学とは真逆の処置。本シリーズで後に紹介予定)

野球人に閉じ込められた伝統

丁度張本氏は、このような環境下で子供のころから野球に没頭し、その後プロ野球選手として活躍し、引退されるまでただひたすら、これが正しい野球道として叩きこまれた代表的な選手で、この時代に生きて来た野球人で在る事を先ず理解する事が重要です。

このような歴史の負の副産物は、現在も尚野球少年からプロ野球選手に至るまで、暴力という指導体制での不祥事、事件が絶えないのはこの時代の富国強兵の精神から来た、兵士の強化育成、指導方針がそのまま野球選手の指導体制、指導法の根幹を成し、長く現在まで伝統として継承されて来ている次第です。このような野球界で生きて来た野球人にスポーツ医科学、教育に付いて論じる事は、非常に酷なテーマであり、彼らが思いこんでいる「美学」を打ち壊す事にもなるのです。このような劣悪な環境の中で生き延び、そしてプロ野球選手として輝かしい実績を残して引退された張本勲氏は、奇跡に近い存在なのです。

彼らにとっての伝統とは、発展させていく事でなく大切に鍵をかけて保管しておく事なのかも知れません

このような論議が、この度の張本氏の野球観、野球論理の根底を支えており、動かぬ同氏の人間形成の礎にも成っているのであろうと容易に推測が出来る次第です。よって、同氏のコメントに対する批判、論評は、近年のスポーツ医科学の知識を少しでも持っている野球ファン、関係者、視聴者に取ましては自然な流れであります。

問題は、同氏が本件に対するコメンテイターとしてこの様なテーマが適していたか否かが問われるべきであるのではないでしょうか。この論理から致しますと、自ずとして張本氏のコメント内容に対するバッシングは如何なものか、バッシングする相手は、他にある、居ると言う事です。よって、同氏は、体験以外の知識、論理を持ちあわされていないと理解されると納得できかも知れません。

その方に、近年の野球論理、医科学的な発想、等を含めた観点からコメント、理解を求めるのが酷というものではないのでしょうか。

Ⅱ.筆者の素朴な疑問

この度の一連の論争の中に置いて、誰もが指摘、論じない共通のテーマがあります。それは、本件の論争に重要且つ不可欠なスケルトン(骨格)無き論争をしている事です。

高校野球の原点は、教育の一環であり、教育の延長線上ではないのでしょうか。公益財団法人日本高校野球連盟を運営・管理する管理者達は、高校野球、選手、指導者を商品化し、ビジネス化することも近年は必要不可欠でしょう。しかし、今一度生徒選手は、教育機関で教育を受けている心身ともに成長過程にある未成年者達である事を忘れているのでないでしょうか。

本競技スポーツを運営・管理する指導者、管理者達は、教育者としての重い使命を最優先に担っている事を決して忘れてはならないと思います。日本高校野球連盟は、高校野球の本質を真摯に理解し強いリーダーシップの下、指導、運営、管理をする使命があります。この指導と実行力の欠落は、このような論争を起こし、収集できない状況となっているのではないでしょうか

高校野球の根幹を支える定義が教育であるなら、これらの論争は全てこの教育か否かの原点に立ち返る事により自ずとして終結すると思いますが如何でしょうか

 

文責:河田弘道

スポーツ・アドミニストレイター

ベースボール・アドミニストレイター

スポーツ特使(Emissary of the SPORTS

お知らせ:第一弾では、論争の元凶とTBSのコメンテイターの張本氏の言動を生きた教材として活用させて頂きました。次回のK'sファイルNO.115は、誹謗中傷されている国保陽平監督、佐々木朗希選手、県立大船渡高校野球部に視点を当ててお送りする予定です。