K'sファイルNO.127:Nikeシューズの理念は大学工房から

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お知らせ: 多くの読者からのリクエストによりまして、本NO.127は、予定日より1週間早く掲載する事に成りました。次回NO.128は、予定通りに2月28日を予定致しております。


K's
ファイルNO.127Nikeシューズの理念は大学工房から

無断転載禁止                              毎月第二、第四木曜日公開予定

目次

第一弾   Nikeシューズの理念は大学工房から

先ず初めに

NIKE社の真意は此処に

創業者の信念は此処に

ローマ五輪の金メダリストは裸足

ラソン記録は真にフェアーな記録?

筆者の素朴な疑問と私見

  今日までのWA(世界陸連)の本件に関するルール紹介

  お知らせ

 

第一弾 Nikeシューズの理念は大学工房から

先ず初めに 

本件が世論に広く告知されたのは、2020115日付の英国の新聞3社(タイムズ、デイリー・メール、テレグラフ)に掲載された記事が発端となったと理解致します。この英国からの外電を受けた日本のテレビ、マスメデイアが追随し社会に拡散した次第です。今夏東京五輪を約半年後に控えているにも関わらず、この様な重大な案件の問題提起とオリジナルソースが、またしても日本のマスメデイアが情報、発信源でない事に対して残念でなりませんでした。何故いつもIOCWA(世界陸連)の問題、情報がリークされるのでしょうか。

確か2020東京五輪招致疑惑の配信も外電で英国各紙であったと記憶しています。日本のスポーツ関係者及びマスメデイアは、情報入手をいつも外電に頼るばかりでなく、もっと独自で情報ネットワークの強化及びオリジナリテイーにこだわって取材努力をして欲しいと切に願う次第であります。

筆者は、何故英国の3社のみが、それも同日に類似記事を掲載したのか、その方に興味をそそられます。これらは、偶然ではなくネタ元は当然絞られると思われます。また、この記事を掲載する趣旨、目的は、ネタ元にあり掲載した3社にも利害があったと理解するのが自然です。そしてまた本件の世界陸上競技連盟(略:WAWorld Athletics)の公式アナウンス(131日告知予定)が行われる1日前には、此れも英国の新聞社(ガーデイアン紙)が公式アナウンスの要旨の一部を結果として掲載しました。ガーデイアン紙は、結果として15日の3社掲載記事を否定する内容であったように筆者は感じましたが、読者の皆様は如何でしたでしょうか。

これらは、英国のジャーナリズムとジャーナリスト達のプロ魂なのか、やられたらやり返すガーデイアン紙記者の闘争心には頭が下がる思いがいたします。日本のマスメデイアのデスクも企業の利害に関わらず是非勇気を持ってプロとしてのジャヤーナリスト魂を発揮して頂きたく期待致しております。

本件は、「厚底とその中に仕込まれたプレイトの問題」としてシンプルに見えて非常に複雑怪奇なストーリーが深層に横たわっているのも事実です。K’sファイル第一弾は、読者の皆様に理解して頂けるよう事の次第と歴史的視点から筆者が直接肌で感じ体験をした事実を加味しながら客観的に時系列を追ってお伝えできればと思います。

 

Nike社の真意は此処に

筆者は、この度の「厚底シューズ論争」を課題にするに当たりまして幾つかの論点が頭によぎった次第です。その中でも「厚底+プレイトシューズを陸上長距離の革命とみるか、商品開発によるナイキの頭脳的ビジネス戦略とみるか」は、いずれにしても議論の根底に位置することは間違いない事実であると思われます。

これら二つの大きなテーマは、ナイキ社を起業した創始者の強いアスリートへの指導哲学の一つが企業理念とコンセプトとして此処に形成されていると思えるからです。この事実を大前提とすると先ずその真意は、ナイキ社のバックグラウンドを少し覗く事で読者の皆様には、理解されやすいのでないかと考えた次第です。K'sファイルを読まれている方々には、そっと歴史の扉を開き真のドキュメントをお教えします。

ナイキ社は、米国が産んだオリジナル企業(例、マイクロソフト社、ボーイング社、等)の一つです。これら企業は、米国の北西部に位置し、特にNike社はオレゴン州ユージーン市(Eugene City)のそれもオレゴン大学(University of Oregon)のキャンパス内の陸上競技(名称:ヘイワード・フィールド)のスタンド下の用具倉庫隣にあったシューズの工房で産声を挙げたのです

オレゴン州は、緑と水が豊かで、木材産業の州として古くから澄みきった川と森林と湖の街として知られています。ユージーン市は、木材の集積場として、オレゴン大学を中心とした学園都市として栄えてきました。大学キャンパス内には、フットボール(50000席)、バスケットボール(13000席)の競技場の他、陸上競技専用(3700席)の伝統的な施設がありそれがこのヘイワード・フィールドでスタンドは全てオレゴンの木材で建設された伝統的なスタジアムでありました。

2021年には、米国で初めて世界陸上選手権米国大会がそれも世界で初めて大学キャンパスの陸上競技場でホストする為にこの伝統的な木造のスタジアムを壊して、その後に新スタジアムが略完成を迎えています。収容人員は、38000人と超モダンな陸上専用競技場が大学キャンパスに出来上がります。本競技場のお披露目には、2020オリンピック大会の最終予選を兼ねた全米陸上選手権大会を予定しているとの事です

ナイキ本社は、現在オレゴン州、ビーバートン市(Beaverton City)に位置して、ポートランド市のナイキタウンと共に知られています。

当時大学の陸上競技部の監督は、ビル・バワーマン氏(Bill Bowerman19111999、享年88歳)でした。彼は、本来フットボールの選手として活躍されていました。また彼の父親は、州知事まで務めた政治家でもあったようです。

同氏は、陸上界に於いて何度も全米大学チャンピオン(NCAA)に男女テイームを導き、数え切れないほどのオリンピック代表選手を輩出、U.S.A.オリンピック代表監督、等々、オレゴン大学には約24年間勤務していました。

一方で指導者、運営管理者としてのみならず時間をみてはいつも大学陸上競技場のスタンド下に作った工房で個々の選手達に合ったシューズを作る作業に余念がありませんでした。その中で有名なシューズは、ワッフル型(たこ焼きのプレートのような)靴底を作って指導している選手、OBOG達にそれを履かせて競技に参加させていました。

筆者にとって彼は、学生時代から長きに渡り大変公私ともにお世話になった尊敬する指導者の1人であり、友人でもありました。大学キャンパス南東に位置する所に体育学部のビルデイングがあり、そのまた南東に位置する場所には、ヘイワード・フィールドがありました。南東の季節風が吹くたびにワッフル型の靴底を作る為の合成ゴムを溶かす匂いが学部の方にまで流れてきていたので、今もその強烈な匂いは筆者の記憶に残っています。

 

創業者の信念は此処に

B・バワーマン氏は、1972年にキャンパスのこのヘイワード・フィールドの彼の工房で現在のNike社を起業することを決心し、設立したのですユージーン市、オレゴン大学のヘイワード・フィールドは、米国の陸上界のメッカとされ、またNikeの聖地でもあるのです

当時、同氏の教え子で在り、米国のオニツカ・タイガー社(現:アシックス社)のセールス部門のデイレクターをしていた、フィル・ナイト氏(Phil knight)をナイキ社に共同経営者(Co-founder)として迎え、同氏にビジネス部門を任せたということを直接彼から聞きました。

この二人の関係は、アデイダス社でシューズの職人気質と言われた兄ルドルフ・ダスラー氏(後に弟と袂を分かちPUMA社を設立)とビジネス、政治、マネージメントに長けていた弟のホルスト・ダスラー氏(二代目アデダス社の経営者)の関係と似ています。しかし、ダスラー兄弟(アデイダス社)は、途中で別々の企業主となりましたが、B・バワーマン氏とP・ナイト氏の関係は、仲たがいもせず最初から最後まで互いにリスペクトし合い、ナイキ社創設から構築、そして再構築へと全力でエネルギーを注がれたのです。

B・バワーマンさんは、Nikeを起業する以前から「どのようにしたらスポーツにおいて人間の潜在能力の可能性を導き出せるか」について独自の思考を深めていましたこれは、まさに彼のコーチングの哲学でもあったと筆者は当時より大切にメモした資料がファイルに残っていますしかし、同氏は、人からコーチと呼ばれることに抵抗を感じていたのも事実で、周囲の皆は彼の事をビルと呼び捨てにし、彼自身もそう呼ばれる事を大変喜ばれていましたし、人間味豊かな人でもありました。

そして、私の脳裏に焼き付いているのは、自宅と大学の往復にいつもおんぼろの確かGMFORDのピップアップトラックで荷台には作業用のシューズ、スコップ、農機具が積まれていました。これは、彼がナイキ社のオーナーになったころもこのスタイルを変える事はありませんでした。此れが、ビル・バワーマン氏の素顔です。人は、「彼はナイキの最高経営者で大金持ちなのにどうしてキャデラックのコンバーテイブルに乗らないのか」と揶揄されていましたし、彼を「ストレンジャー、変わり者」と表現する市民がいたのも確かです。しかし、彼はそれらの声に一切耳を貸さなかった事も事実でした。

彼は、1972年にNike社を起業した時に同氏独特な表現で「Tone& Directionを大変重要視され、いわば今日のナイキ社の屋台骨となっている理念、フィロソフィーの1つとされたのかも知れませんそして、今日、それらの言葉は、「我々のゴールは、どのようなレベル、能力のアスリートに対しても役立つ製品を改善、開発し制作して届ける事である。此れが我々に課されたレガシーでもあり、また我々は、競争とは別に投資者に価値を与えビジネスの機会を創り出す事なのだ」とも述べられています。このように、ナイキ社の創設者のB・バワーマン氏の創設時の理念は、「厚底+プレイトシューズを陸上長距離の革命とみるか、商品開発によるナイキの頭脳的ビジネス戦略とみるか」の両面をカバーしていると思います。

 

ローマ五輪の金メダリストは裸足

1960年五輪ローマ大会の金メダリストはシューズ無し!

アベベ・ビキラ(Abebe Bikila, 193287 - 19731025日)は、エチオピア出身の選手で、オリンピックのマラソン種目で史上初の2大会連続優勝を果たし、2個の金メダルを獲得した選手でしたその最初のオリンピック大会は、19609月のローマ大会に際しては、大会前にシューズが壊れて裸足で走ることとなった2時間15162は、当時の世界最高記録で優勝した。此のニュースは、強烈な「裸足のマラソンランナー、アベベ」として世界に打電され、今日までマラソン界のレジェンドとして語り継がれているマラソン界のヒーローとなったのです。

19641021日の東京オリンピックでのマラソンでは、中盤から独走態勢に入り、全く危なげのないレース運びで、それまでのヒートリー選手の記録を144秒縮める2時間12112の世界最高記録で再び金メダルを獲得したのです。東京オリンピックの際にはプーマ(Puma)のシューズで参加したと記録されています。しかし、日本の高温多湿は、彼の一番の苦手なコンデイションであったようです。(アベベ・ビキラ選手プロフィールより)

 

ラソン記録は真にフェアーな記録?

この様な時代の選手達がもし今日論議されている厚底シューズを履いて走ったらどれ程の記録が出るのか、と想像するだけでもワクワクするのではないでしょうか。しかし、この様なマラソン競技の世界記録、国内記録、等は、如何なる価値評価がなされるのかが、疑問に思えてくるのは筆者だけなのでしょうか。

ロードレースは、自然が大きな記録へのファクターとなる事からもアスリート達が同じコース環境で出場してもシューズと大会開催地の自然環境により、順位、記録が異なる事実から世界記録、オリンピック記録、各種公認マラソン大会での記録は、今後どのような評価により公式記録としてファイルされて行くのか非常に複雑且つ矛盾した時代を迎えてしまったようです。この問題についてもWAは、真剣に議論を重ねフェアーな基準を設けて頂きたいのは選手達は勿論のこと、一般市民ランナーも疑問視していることと思われます

 

筆者の素朴な疑問と私見

この度のナイキ厚底シューズの話題は、2020115に英国の新聞3社が同時に掲載されました。各社記事内容は、略同じような内容で在った事は読者の皆様もご承知の通りです。ただ3社共に共通したポイントは、「Nike厚底シューズは、問題でWA(世界陸連)は今にも禁止し今後使用出来なくなる」というニューアンスで強い読後感を抱かせる内容であったと筆者は感じた次第です。多分3社が本件のニュースソースを得たネタ元は、そのようなニューアンスで意図的に発したので担当ライター達はそのようなネガテイブ記事の掲載に走った可能性が高いと推測されます。その結果として、オリンピック予選を控えた多くのアスリート達及び指導者達を混乱に落し入れ、一般市民ランナー、社会まで不安に巻き込んだ根源を創作したに過ぎなかったというこのようです。

筆者は、この記事を外電を通して目にした時に直感したのはネタ元の狙いが何か、何故英国の新聞3社だったのか暫く思考回路を開きネタ元の真意を推し量りました

そこで本件の真意と問題の現状、そしてこれから起きるであろう問題と結末に必要なファクト(事実、根拠)を得る為、私は、信頼する米国、ヨーロッパの陸上界の重鎮、親友、知人に打電し必要且つ信頼できる情報を収集し事の次第を明確に理解した次第でした。

当初新聞記事を目にした時に直感した事は、「現在市場に既に出ている製品を禁止にすることは先ずありえない。記事は、近く(1月下旬)WAが本件に付いて公式発表をすると告知しているが、WAの新会長のセバスチャン・コー氏は、諸般の複雑な事情が絡み合った中で落としどころに苦慮しているのだろうな」と同情した次第です。

本件に付いて情報収集を始めると、そこには企業の巨大なスポーツビジネスに対する投資が歴然と浮かび挙がって来た事です。筆者が特に投資内容を分析すると二つの投資COREが浮かび挙がったのです

その1つは、AI(人工頭脳、Artificial Intelligence)であり、もう一つは、HI(人間頭脳、Human Intelligence)であった事です。特に後者のHIは、不可欠且つ不変のファクターである事でした。この程の厚底シューズの開発に関わる統括者は、スポーツ医科学に特化したそれも各分野、部門、部署の医科学者達のAIHIを束ねた本プロジェクトのスポーツ・アドミニストレイター(トータルマネージメントを行うGM的存在)が、企業の中心に居て特定の複数の大学の研究機関、個人の研究室と一体化したプロジェクトテイームで長年各分野のイノベイションに努めて来ていることが明らかになったのですこの度の情報収集により、このHIの中には、筆者の米国の大学時代の友人、知人が数多く、またその家族が関わっていることに唖然とした次第です。

スポーツ・医科学の分野は、一企業内のイノベイションのみに頼るのではなくグローバルな企業に於いては既に企業を中核としたファームシステム(大学研究機関)を構築して、プラットホーム化し、医科学の情報収集からそのリテラシーにいたるまで、アイデイアからプロトタイプ(試作品)まで一貫したシステム化を図り、バーテイカル・ササエテイー(Vertical Society)を形成していることを意味しています。

しかし、此れも現在スポーツマーケットの世界シェアーの50%占めるナイキ社ならではの成せる事かも知れません。スポーツ界の頂点に長きに渡り君臨して来たアデイダス社は、二代目ホルスト・ダスラー氏が亡くなられた後、近年世界のマーケットセアーは、2位(30%)となり、3位は3社(プーマ、ASICSアンダーアーマー、等)がしのぎを削っているのが現状のようです。

 

今日までのWA(世界陸連)の本件に関するルール紹介

Rule#143 5.B. states that no shoe can provide an unfair” advantage and that “Any type of shoe used must be reasonably available to all”.

 筆者は、このルール1435BではWA(世界陸連)の規則とは思えない抽象的でいかようにも理解できる代物と判断致しました。特に、“アンフェアー”アドバンテイジとは、何なのかの具体性の欠落はその代表たる欠陥規則で今日まで誰もが指摘せず、論議に至らなかったのが不思議なくらいです。この規則の深層にも長年に渡るポリテイカルゲームが存在することを窺わせる情報が寄せられて来ています。

この度の本件の最大の問題は、スポーツ・アドミニストレイターの視点で申しあげますと結果としてナイキ社の企業理念に基づいたシューズの開発、イノベイションにWA(世界陸連)のルールが着いて行けていなかった事に最大の起因があったので混乱を招いたと確信する次第です

 

文責:河田弘道

スポーツ・アドミニストレイター

スポーツ特使(Emissary of the sports

紹介:Gファイル(長嶋茂雄と黒衣の参謀)、文藝春秋

 お知らせ:次回は、131日に既にWAから本件に関しての公式アナウンスがありましたが、その中身の整理と要約、本件の隠されたファクトをご紹介しながら、WAの公式アナウンスの最大の問題、欠陥について解析し、既に発生している次なる問題を指摘してみたいと思います。ご期待下さい。