K'sファイルNO.76:日本の冬の風物詩大学箱根駅伝は誰の物 無断転載禁止

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K'sファイルNO.76:日本の冬の風物詩大学箱根駅伝は誰の物 無断転載禁止

注:日本伝統の冬の風物詩(Tradition)の1つであります駅伝のシーズンと成りました。そこで、昨年本K'sファイルに於きまして、大学競技スポーツの一つ箱根駅伝を連載させて頂きましたところ、大変好評を頂き、また多くのK'sファイルの新しいファン、読者の皆さんからは再度、この大学箱根駅伝をテーマにしたK'sファイルを掲載して欲しいとのお問い合わせを頂きました。そこで、昨年掲載致しました各テーマに修正と加筆をして、よりご理解し易い内容にしてお届けしたいと思います。今年も大学スポーツ界では、沢山の不祥事、事件、事故等が世間を騒がせていますが、本箱根駅伝は、どうなっていくのでしょうか。読者の皆様には、大学教育機関として在ってはならない大学競技スポーツの実態をご理解して頂き、健全な大学本来の姿に未来ある学生及び学生選手を導く為の方法を是非ご一緒に考えて頂けたらと願う次第です。

 

第一弾:筆者が大学箱根駅伝に興味を持った動機~

1.筆者の実体験から

大学箱根駅伝(略:箱根駅伝)の組織、運営、管理に興味を持ち始めたのは、当時企業スポーツに於きまして、スポーツ・アドミニストレーターとして運営、管理をしていた時期からでした(1985~2005)。

何故興味を持ち始めたかと申しますと、日本に於ける企業スポーツは、日本独自の伝統的な運営、管理を行って来たプロでもなくアマでもない、不思議な競技スポーツの組織、団体だったからです。(企業スポーツに付きましては、K'sファイルNO.737475で紹介済み)

日本におけるプロ競技スポーツには、テイーム競技はプロ野球をはじめ、93年に開幕したサッカーJリーグ、2017年発足のバスケットボールBリーグがあります。また個人競技では、テニス、ゴルフ、ボクシング、等があるのは皆様ご存知の通りです。

一方、プロ競技ではない競技種目に取り組んでいる学生選手、高校生選手達にとっては最終的な活躍と生活の糧を得る場所は企業スポーツとなります。そしてその延長線上にあるのが、世界選手権大会であり、オリンピック大会です。しかし、これもごく限られた選手しか所属できない厳しい世界であります。

1974年に国際オリンピック委員会(略:IOC)の「オリンピック憲章」の改正があり、「アマチュア」の文字が消え、オリンピック大会には、1988年ソウル大会からプロ選手も参加できる事に成りました。

これにより、日本における企業スポーツの伝統的な体質は、競技スポーツ組織、団体、選手達にも徐々に変化が見られるようになりました。しかし、依然としてプロなのかアマなのか中途半端なスタイルが解消されたわけではありません。このようなスポーツ界の新しい流れの中で、日本の学生選手達の意識にも、以前と異なる意識が芽生え、段々と自分の意思を表現する様になって来たのも事実でした。これらは、急激な海外からのプロ化の波にも大きな刺激を受ける事になり、歴史的な変革の時期であったのだと思われます。しかし、残念ながら指導者、管理者達は、学生選手、選手達にこのグローバル化が進む競技スポーツの動向を正しく教育、指導する為の十分な知識を持ち合わせていなかった事は不幸な出来事でした。

 

2.企業スポーツの栄枯盛衰

企業スポーツの特徴は、企業の経営業績に大きく左右されるという事とスポーツからの収益を求めない事です。

1964年の東京オリンピック開催と共にスタートしました企業スポーツは、1990年前半から吹き荒れたバブル経済の崩壊によりまして、1995年をピークによりいっそう廃部、休部が加速し、それまでの企業スポーツの半数以上が消滅して行ったのです。

特にそれまで脚光を浴びていました社会人野球(都市対抗野球)、バレーボール、バスケットボール、テニス、ラグビー、等から伝統的な企業名が消え去り、今日に至った状況をファンの皆様は、肌で感じて来られたのではないでしょうか。

驚く事に現在の大学生の大半は、日本のオリッピック代表選手、競技スポーツ選手達が長年会社、企業スポーツにより支えられ、今日も支えられている事の知識と理解を持たない状況です。特にその中のスポーツ専攻学生ですら、企業スポーツって何ですかと質問された時は、唖然とした次第です。大学の専門分野に於いて、この企業スポーツの存在と重要性を指導する指導者、教員が居ない事もこの大きな要因の一つであると思います。

このような現状は、指導者、教員が居ないのでなく、スポーツ・アドミニストレーションの専門分野が教育機関に存在しない我が国の現状と現実がスポーツ界の再編、構築を遅らせている最大の要因の一つであると確信します。

また、新しい世代の若者達への教育もさることながら、TV・マスメデイアによる報道に於いても、プロの競技スポーツと大学競技スポーツの違いと企業スポーツの存在の意義を解説できるくらいの知識を持ったアナウンサー、解説者が見当たらない様に思われますが、如何でしょうか。

 

3.学生選手の入社面談報告書と現実

陸上競技(英:Track & Field)は、日本が嘗て華やかな時代を迎えていた長距離、マラソンが他国の競技レベルの強化、向上とは対照的に低下し、冬の華であったエリート・マラソン大会そのものの存在が薄れ、近年は市民マラソンが主体の大会に移行している様子を皆さんも実感されている事と思います。このような状況下で唯一、脚光を浴びているのが冬の風物詩(英:Tradition)として正月恒例の行事となりました「大学箱根駅伝」、そして企業スポーツとしての全国実業団駅伝「ニューイヤー駅伝」です。本駅伝競技は、日本にのみ存在する日本オリジナルな競技方法で行われるロードレースの1つです。

1985年当時から、私は、NEC SPORTS(強化8競技)を会社側の強い要請で強化して参りました。その後、陸上競技部の強化を始めた頃、当時の長距離担当指導者、管理者からのスカウテイング、リクルーテイングの計画書、面談報告書、等の最終レポートに目を通し、担当者から説明を受けていました。これらは、毎年の事でしたが、そのリストの中の大半は、箱根駅伝で活躍しマスメデイアで取り上げられている選手達に関するものが大部分でした。

特に、特注マークの選手達の面談レポートには、注目すべき内容が書かれていました。このような学生選手の多くは、所属大学で特待生として高等学校から迎えられた学生選手達です。日本に於ける特待生とは、その競技スポーツに特に優れ、大学側が入学時に特別待遇の学生として迎え入れた学生選手への処遇を指します。

驚いたのは、大学選手に企業の大卒給与以上の現金が、大学側から毎月支給されている現実でした。大学側は、箱根駅伝で活躍させる為だと理解しているとの事(広告塔として)。

面談学生選手曰く「御社は、今自分が大学から毎月受けているお金より大卒の初任給は低いんですね」と堂々と担当者に話し、その内容が、面談報告書に記録されていた事でした。

また、「自分は、会社で競技が出来なくなった後、会社に残り勤めをするつもりはないので、退職金代わりに入社時に支度金として頂きたい。他の会社では、この条件を呑んでくれる社が複数(実名を挙げて)あるので、この支度金が大きい方にお世話になります」とも付け加えられていました。面談者は、複数の異なる大学学生選手からこのようなリクエストを突き付けられていた次第です。

これは、即ちプロの契約時の契約金に置き換え、条件としていると受け取れました。このような学生選手を抱える大学は、当時も今も大学箱根駅伝の有名大学か、そうなろうとしている大学であります。現場の監督には、申し訳なかったのですが即答で“NO”の回答をし、「そのような条件で引き受ける会社、企業にどうぞ行ってもらって結構です」と伝えました。その理由は、会社側がそのような選手を入社、入部させるコンセプトではなかったので、そのような予算を確保していなかったからです。その学生選手達は、実業団駅伝に大変力を入れている企業に行った報告を後に受けました。しかし、そのような学生選手達は、選手のみならず彼らの指導者達も自らをTVタレントと勘違いしている様子で、企業に入社後このような選手達は鳴かず飛ばず状態で選手生活を終えているのも事実です。筆者は、学生選手を指導する大学、経営者、指導者の資質に大きな問題があると感じています。

日本の大学競技スポーツの学生選手が、個々の大学でどのような教育、指導を日々受けているのだろうか、大学競技スポーツは、どのようなアドミニストレーションがなされていてこのような学生選手が育成、教育されているのか、とこの時期から、20年間観察しながら強い関心を箱根駅伝と日本の大学競技スポーツに抱いてきました。

そして、その後、ご縁を頂きまして日本の大学で2017年春まで、10年間教鞭を取らせて頂き、上記問題を含めた日本の大学競技スポーツの実態を観察、研究致し学内外の状況と問題の本質に辿り着いた次第です

 

4.透けて見えた大学駅伝の部活動と実態

大学生の長距離選手のスカウテイング、リクルーテイングにおける、複数の大学陸上部、長距離選手(主に箱根出場が主眼)達の企業テイームへの入社条件と実態が明らかになっていました。筆者は、常に好奇の眼差しでこれらの実態をマスメデイアが報道しない視点に注目を抱いていました。大学側が、このような学生選手達をどのようにして高校時代にリクルートしているのか、またどのようなオファー(条件)を大学側の誰が責任者として約束し、大学内での処理をしているのかに付きましても当然、大変興味を抱きました。

ルール無き日本の大学競技スポーツ界は、無法(Out of Law)状態であり、これでは大学競技スポーツが教育、教育の延長線上にあるなどとは決して言い難い、言えないのが現状、現実であります。教育機関に於けるこのような非教育的な教育者と称する指導者、管理者、経営者に対していったいこの国の誰が指導、教育、是正勧告を成されるべきなのでしょうか。

勿論、本件は、長距離選手のみに限った事でなく、他の競技スポーツ男女(高卒、大卒)のリクルート活動に於いても多くの重要な問題と現実に直面致しました。此れらをきっかけに、大学野球界、陸上界、バレーボール界、バスケットボール界、テニス界、ラグビー界、等を通して教育機関とその指導者、関係者と企業スポーツとの関係と実態に付きまして長期間に渡って現場の状況と現実を実体験させて頂いた次第です。驚きましたのは、大学、高校の指導者、管理者、経営者の中にはこれが日本の教育者を名乗る人達なのかとその現実とその実態に限りない絶望感をまざまざと見せつけられた思いがあります。

これからお話致します、大学箱根駅伝編では、このような高校、大学競技スポーツを経験した学生選手の受け皿として、企業スポーツがある反面、理不尽な教育、一部指導者達の教育者としてあるまじき実態、そして大学競技スポーツに関与する内外関係者の実態、及びその組織、団体を理解して頂く事により、悪しき問題の根深さを知る事が出来ると思います。このような教育機関の中では、今日体罰と称する暴力が絶えない根源が此処にも深く根付いている気がしてなりません。

特にこの人気のある大学競技スポーツの1つである、箱根駅伝は、その実態を覗く事で、より一層我が国のスポーツ社会の縮図を見ることになるかと思われます。TV中継では、大学箱根駅伝を美化する映像、コメントを担当アナウンサー及び解説者が蘊蓄物語と共に連呼されていますが、それを見聞きするにつけて何か歪められた美学を毎年虚しく聴かされているように思えてならないのは筆者だけなのでしょうか。多分これは、放送を担当している関係者が実態をご存知でないのか、そこまで取材、学習が出来ていないのか、或は知っていても視聴率及び新聞の拡販目的の為に美化、誇張しているのかも知れません。

読者の皆様には、大学競技スポーツと学生選手達の現実と実態を洞察して頂き、この機会に考察して頂ければ我が国の大学競技スポーツの根深い負の遺産と将来の歩むべき方向性が自ずとしてイメージできるのでないかと期待致す次第です。

 

文責:河田弘道

スポーツ・アドミニストレーター

スポーツ特使(Emissary of the SPORTS

お知らせ:次回K’sファイルNO.77からは、本論の「大学箱根駅伝は誰の物」に付いての素朴な疑問から述べさせて頂きます。読者の皆さんと一緒に考えて参りましょう。