KファイルNO.144:スポーツ・マネージメントとスポーツ・アドミニストレイションの基礎知識

KファイルNO.144:スポーツ・マネージメントとスポーツ・アドミニストレイションの基礎知識

無断転載禁止                 毎月第二、第四木曜日公開予定  

お知らせ

 毎回多くの読者の皆様には、ご笑読頂き過大な評価をして下さり感謝申し上げます。筆者は、少しでも読者の皆様に自ら体験した事、専門知識、等を還元できればと思っております。また今後とも一人でも多くの内外の方々がKファイルに興味を持っていただき、スポーツに関する知識を増やして頂ければと願っております。Kファイルの存在をご存じでないスポーツ関係者に声を掛けて頂ければその方にチャンスが訪れる可能性が生じます。筆者より

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読者からの便り

河田先生

No.143拝読させて頂きました。やっと伝家の宝刀を抜いて頂いたと思い、大変嬉しく思います。「SADの専門コース設置」烏滸がましいと思いますが、先生が日本の先駆者となり現在を変革出来無いものかと考えておりました。先生は50年いや100年遅れを取り返せない、とおっしゃられており、多難な道と思います。日本のスポーツ界のため一肌、ふた肌脱ぐことは出来ないものでしょうか?勝手な事申し上げて、気を悪くされましたらお許しください。 読者より(大学教授)

河田弘道

読者からの便りにございました文科省元高官の方のお話は、同じ元役人として同感であると同時に、現役の中には自分の良心、思いを表に出すことを許されずにいる人たちがいるのだなと同情的に、悲しくなりました。官界だけではありませんね。マスコミ界の統制は、記者クラブ制度の悪弊とあいまって。もともと、日本にジャーナリズムはないと言われていましたのに、ますます政府発表を記事にするばかりで批判は無しになりますね。それでも、朝日の記事はあいまいにしても一つの進歩ではないでしょうか。

スポーツ界の在り方にも目が向けられるのではないかと思います。あのオリンピックの延期を決めたときのIOCとのテレビ会議に日本側は政治家しか出ていなかったこと。大坂選手のマスクについてインタビューされたアスリートが一様に無言だったと言われること。現在の日本のスポーツ界の象徴のようです。

河田様のブログが一般読者だけでなく、スポーツ関係者に届き心を動かしつつあることを力強く思います。少しずつ手ごたえが出てきましたね。ポストコロナの価値観の転換の中で、多くの関係者が目を覚まし変えていってほしいものです。読者より(元郵政省高官)

目次

スポーツ・アドミニストレイションとスポーツ・マネージメントの基礎知識

1.スポーツ・アドミニストレイション(略:SAD)

      ■アドミニストレイション(略:AD)

2.マネージメント

  ■マネージメントとは

  ★マネージメント技術の基本

3.スポーツ・マネージメント

       ■経営、運営、管理のソフト

       ■スポーツ活動の生産体制

       ★伝統的な組織形態のピラミッド型

       ■スポーツ・ビジンスの商品価値は何処に

4.SADは暗い伝統的な固定概念を明るい未来志向の創造性へと変革

 

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2020年10月22日 木曜日    公開

スポーツ・アドミニストレイションとスポーツ・マネージメントの基礎知識

1.スポーツ・アドミニストレイション(略:SAD)

スポーツ・アドミニストレイションとは、詳しくはスポーツの組織、団体の内部に作られた「内規=Bylaws」や外部機構によって形成された「権威=Authority」をバランスよく経営、運営、管理に活かしより生産性が高く、効率のよい方向に導き実行する行為のトータルマネージメントの総称と申した方が理解し易いと思われます

SADは、過去の縦割り社会(Vertical society)のような支配的な経営、運営、管理イメージでなく縦、横のバランスを考え、風通しの良い個々の存在と能力を活かし導き出す事がSADの特徴です。従来の縦割り社会では、ボトムアップできない弊害があったが、SADに於いてはトップダウンボトムアップ、左右交差共有できるバランスの取れたシステムが特徴と言えると思います。

注1:内規(bylaws; a rule)=組織の内部に適用されるきまり。権威(Authority)=①他の者を服従させる威力。②ある分野において優れたものとして信頼されていること。その分野で、知識や技術が抜きんでて優れていると一般に認められている。

注2:日本の伝統的なアドミニストレイションと言えば、アドミニストレイション(略AD):国や自治体の立法によって形成された業務の執行作用と理解されてきた。日本語としては、「行政」という言葉があてられ特定の固定観念が強く植えつけられ今日に至っているようです。

■アドミニストレイション(略:AD)

本来アドミニストレイション(AD)は、高度に発達した組織において働く機能であり、国や自治体の活動に限らず、組織一般の経営、運営、管理業務を指して使用される場合もあります。マネージメントが意思形成と決定を重視した働きであるとの理解に対して、アドミニストレイションは、決定事項をスムーズに執行する為の働きであると理解されています

日本のスポーツ組織の場合は、それ自体が権力機構としての性格が強い場合や、外部組織に対するパワー依存が明白な場合にはその組織を動かしている中心機構をアドミニストレイションという場合もあります。これには、国や自治体の組織のみならず民間のスポーツ統括団体の業務も含まれます。また、学校体育の経営、総合型地域スポーツクラブの経営、運営、管理なども、スポーツ・マネージメントというよりはスポーツ・アドミニストレイションといったほうがよいかと思われます。何故ならば、これらは、学校教育法、スポーツ基本法が強く関っているからです。組織、団体の運営、管理は、アドミニストレイションと呼ぶ方が相応しいと思います。

ADには、強い組織、社会、政策、権力、団体、等の因子が多々含まれているからです。スポーツ・アドミニストレイションは、種々のスポーツ・マネージメントがCOREをなして集合している機関、組織を高所からトータルマネージメントすると考える事も出来ます。

2.マネージメント

■マネージメントとは

マネージメント(Management)は、個々の無秩序な人々の集まりを生産性(発展性)のある組織に変える(まとめる)事を総称した表現です。これらは、何れも組織という枠組みの中で考えるのが適当です。マネージメントには、それぞれ異なる業務があります。 

①経営:ある一つの一貫した経営方針を短期、中期、長期と方針をもって組織を指揮し 

              責務を負う体制のことです。

経営管理:実務の計画がその通りに遂行されているように誘導する管理部門です。

③作業管理:具体的な現場の作業をコントロールするオペレイション部門です。

★マネージメント技術の基本

マネージメントをする人には、次の基本技術が必要であるとされています。

①専門的な能力(Technical Skills):1つでも多くの人が認める能力を有する人物。特定の業務遂行に必要な知識、方法、技術、機器を使用する能力があり、経験、教育、訓練から得られる能力を意味する。

②対人能力(Human Skills):否定的性格には不向きである。他人と一緒に、また他人を通して仕事をする能力や判断を意味する。勿論、リーダーシップ、モチベーションの適用能力が含まれる。

③概念化能力(Conceptual Skills):大局が把握できるか否かは、マネージメント力の基本となります。これらは、組織活動を全体的に見渡せる能力を意味する。

3.スポーツ・マネージメント

■経営、運営、管理のソフトとして

スポーツ・マネージメントとは、スポーツをコア(核)として人と人との関係を作り出す機能を総称したものですスポーツにマネージメントの「」がスポーツに加わる事により多くの新しい生命力が与えられる活動を意味してます

スポーツに於けるマネージメントは、その目的にあった経営、運営、管理をより一層整える為のソフトの役割です。それらは、スポーツ消費者に興味をよりいっそう持ってもらう為、強化、向上、告知の為、経営・運営・管理をより一層整える為の「ソフト」として理解するとわかりやすいかと思われます。

■スポーツ活動の生産体制

スポーツ・マネージメントは、個人、集団、組織により意味内容が異なってしまう特徴をもっています。スポーツの資源は、人、物、金だけでなく、これらから派生するイベント、クラブ、スクール、施設、TV/マスメデイア、等々をいかに有効に利用できるかスポーツサービスに活用できるかが重要です。

スポーツ生産組織には、

①諸資源をうまく結びつけて採算がとれるようにするマネージメント。

②市場の条件に合わせた販売が出来るようにするマネージメント。

③スポーツ活動への直接的マネージメントをいかに最大限コーデイネートする。

    が大変重要視されます。

★伝統的な組織形態のピラミッド型

①トップマネージメント:会長、社長、CEO,副社長、専務取締役、常務、 取締役、(支配人、執行役員、部長を含むケースもある)――これら経営者達が含まれる。

②ミドルマネージメント:支配人、部長クラス、一部課長を含む。

③ロアーマネージメント:課長、係長、主任、担当。

企業、組織、団体の規模により責務も異なり、名称も異なっているのが現状です。

従業員が100名、1000名、10万人規模の企業、組織と50名以下規模のそれとはおのずから責務の重さも異なった立場となるのは言うまでもありません。

注:トップダウン方式は、ボトムからトップへアップは不可、情報の共有も不可、指示待ち人間を醸成、個々の能力の発展、向上が難しい。よって対応能力は弱い、個々のモチベーションの向上が難しい。しかし、組織としての運営・管理はやりやすい特徴があります。

注:スポーツ組織には、最高経営者、ビジネス担当者、マーケテイング担当者、オペレイション担当者、メンテナンス担当者、渉外・広報・営業担当者が直接的にエンドユーザー(顧客、観客、ファン、等)との対面者としてダイレクトコンタクト・パーソン(DCP)、等が必要不可欠である事は言うまでもありません。

スポーツ・ビジネスの商品価値は何処に

スポーツ消費者は、物としての既製品を買うのでなく、消費現場は自らの「出会い=エンカウンター(Encounter)」を買い求めているのです。このことは、スポーツ・ビジネスの商品価値の根幹をなすものである事を決して忘れてはならないのです。同じスポーツであれば誰から買っても同じスポーツ活動と出会えるというものではない、という意味で

例えば、ファンが競技場に直接的に足を運ぶのは、入場券を購入して自身が着席できる席を確保するのです。

しかし、その席は、買ったからと言って既製品として持ち帰ることはできません。本来の目的は、競技場という一般社会から隔離された別世界の雰囲気、空気と競技スポーツを観戦することでテイーム、選手個々の競いで一瞬にして起きる出来事に遭遇する事、即ち「出会い=エンカウンター」という二度と同じ出会いに遭遇できない出来事を買って楽しむ事がファンにとっての最高の魅力なのです。顧客ひとり一人のニーズを最大限に満たしていくという点で、このエンカウンターは、最高のスポーツ・ビジネスの商品価値なのです。此れこそがスポーツ・ビジネスの原点なのです

4.SADは暗い伝統的な固定概念を明るい未来志向の創造性へと変革

近年ではオリンピックだって、W杯だって立派なスポーツ・ビジネスとして大きなお金が動いています。何を今更と思うが、日本では、スポーツマンシップ精神とか、スポーツの神聖が何か特別の美学であるかの如く尊重されています。しかし、これらは、反面企業としての商業目的にスポーツを利用しづらいところがあるのも事実です。

これにより、逆にスポーツの振興、推進、発展の障壁になっていることに誰もが触れたがらないのは何故なのでしょう。それは、日本の良き伝統的な歴史、文化、慣習から美徳とされているのかも知れません。

筆者は、これらがそもそも我が国に於けるスポーツ利権の根源と化している要因の一つのように思えてならないのです。即ち、国民・社会に於いて、伝統的にスポーツを神聖化することにより、誰もが手出しできない様にバリケードを張り巡らして、そこに国会議員、政治家達が「よっしゃ、よっしゃ」と利権を求めてやってくる「」を提供し、構造的な問題を既に構築させてしまっているような気がしてならないのです。この政治家とスポーツ界の関係は、欧米先進国には見られない利権構造です。この度も既に安倍晋三前首相に東京五輪組織委員会名誉最高顧問とか、公益財団法人日本アーチュリー協会会長の席を明け渡す事も政治家達の利権構造がいつまでも続いていく様子が伺えます。

そして個人の都合により「スポーツマンシップ、ワンテイーム、アスリートファースト」とかを軽く使う政治家、スポーツ関係者が近年目立ち始めたのも事実です。これらの人達は、この「競技スポーツでしか得られない出会い(エンカウンター)」の真の価値観を持ち合わせていないのか、気付いていないのかも知れません。或いは、他の興味が強く真のスポーツの価値観が異なるのかも知れません。

スポーツは、精神論も大事ですが、これからのスポーツ世代には自らスポーツを行う事とスポーツ観戦から得られる「エンカウンター」をより多く発見し、個々の生活に取り入れ自らを発展、向上するモチベーションとして活用して欲しいと願う次第です。 

赤字経営のスポーツ団体や地方のスポーツイベントにスポンサーする企業が少ないが為に、興味ある競技をしたい、観戦したいにも関わらず一般市民の参加する場がかなり制限されています。一般的にスポーツとは、プロやオリンピックレベルの選手の人達だけのものではないのです

少なくとも今までの日本は、スポーツと云うと「スポコン、体育会系、体育の先生、ぶん殴られる、正座させられる、歯を食いしばってトレーニングさせられる」イメージで、一般の人が気楽に楽しんだり、健康のために楽しく続けたりするという感覚があまりなかったのではないでしょうか。

日本の伝統的なプロ野球球団に於いても現在も選手と指導者の関係は、暴力(精神的、身体的意味)指導が最優先されているのは事実です。これらは、選手達が幼いころから一つの競技スポーツ種目に特化し、指導者達が、暴力指導を指導手段の一つに用いて他の競技スポーツに興味を持たないようにし、威嚇したり、脅したり、暴力を用いなければ選手が動かない、動けないようにしてしまっているのです。このように暴力主体の指導は、一つの暴力指導症候群(シンドローム)化、従属化が子供達の心身に染まってしまった状態であると申しても過言でないかと思われます

例えば、競技スポーツでは「合宿所、競技者寮」と呼ばれる集団生活を強いていますが、これも広義に於いては暴力的な運営・指導管理手法の一つであると思われます

未来に向かうこれからの子供達にこのような偏った指導概念でよいとは思わないでしょう。このような管理指導を長年継続しますと、人は自主独立性が妨げられ、全員が同じ形に入れ込まれ、指示待ち人間化してしまっているのです。これらは、現在のプロ野球界の選手、指導者に色濃く堆積してしまっている事を筆者は身を持って体験しています。

一般の市民がスポーツに参加できる環境に関しては、先進諸国のレベルに比べてかなり遅れをとっている日本でも、最近ようやく市民や一般の人(つまり競技者以外の人)が楽しめる機会や環境が増えてきています。手軽なテニスやサッカー、ゴルフ、ウオーキング、ジョギング、等は、地方自治体、リクリエイション関係者により一般の人達とスポーツを楽しむ機会を積極的に持とうとしています。また、自治体が主催する”どこでも、だれでも、いつまでも” 参加できるスポーツ・リクリエーションのイベントも増えてきました。これからは、一般国民、都民、市民が生涯学習の一環として通える「スポーツ・コミュニテイーカレッジ」が必用不可欠な時代が訪れたと確信していますこれにより中高齢者の健康管理、医療費の減少は、確実に右肩下がりとなることを確約いたします。東京五輪に巨額な財源を投資する余裕があるなら、全国にこのCommunity Collegeを展開することで、どれほどの国民に健康と必要な知識を付与できるか何故政治家、官僚は、発想しないのでしょうか

スポーツ・マネージメントは、広く浅くのようで、実は大変奥の深いものです。近年のスポーツ・マネージメントは、①スポーツ活動をやることに重点を置く、オペレーションタイプと②スポーツ活動を見せることに重点をおく、プロデユース(商品化)するタイプに明確に分かれてきだしたのも特徴の一つと言えるかとも思いますこれらを総合的に取りまとめ、経営、運営、指導、管理しているのがスポーツ・アドミニストレイター達のアドミニストレイションの一つなのです。次回は、このオペレイションを少し覗いてみましょう。

 

文責:河田弘道

スポーツ・アドミニストレーター

スポーツ特使(Emissary of the Sports)

紹介:G file 「長嶋茂雄と黒衣の参謀」 文芸春秋社 著者 武田頼政(共著)

お知らせ:

NO.144は、如何でしたか。大学院の講義の様で退屈でしたか。今回は、NO.143の基礎知識から少し細部の専門知識を多く含めました。スポーツ界に限らず一般企業、社会にも当てはまりますファンダメンタルな要素を多く感じて頂けたのではないでしょうか。