KファイルNO.149: 大学箱根駅伝とスポーツ・ビジネスの手法

KファイルNO.149: 大学箱根駅伝とスポーツ・ビジネスの手法

無断転載禁止              毎月第二、第四木曜日掲載予定

 2021年 謹賀新年

明けましておめでとうございます。本年もKファイルへのご理解とご支援を宜しくお願い致します。2021年は、特に激動の内外のスポーツ界となると思われます。スポーツは、心身の健康が基軸に在って初めて存在します。昨年安部晋三前首相は、東京五輪延期に際して「完全な形で東京五輪を開催する事をお約束する」と述べました。政治家は、根拠も無い事を平気で約束、断言する人種である事を証明されました。昨年来疫病が猛威を振るう中、東京五輪を開催する事が人類と日本国民にとって最善か否かを東京都、東京五輪組織委員会、日本政府は一日も早く高い見識と良識を持って決断・告知をして頂ける事を心より祈念致しております。Kファイル筆者

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読者からの便り~

小職は、Kファイル147、148を拝読させて戴いた後、正月2、3日の大学箱根駅伝をテレビ観戦致しました。昨年までの箱根駅伝とは全く異なる景色と知的視点でこのイベントを観戦する事が出来ました。何も知らず唯ひたすら箱根路を直走る誠実で正直な日本人学生選手達が不憫にさえ思えて仕方ありませんでした。そして、唯ひたすら不慮の事故が起きない事を願っていました。何故ならば、この学生、選手達には、傷害保険すら掛けられていない自己負担である事をKファイルで教えて頂いていたからです。

また、日本語の読み書きも出来ない外国人選手達を留学生という名の下で走らせるためにだけアフリカから連れてきて走らせている大学、大学経営者達、指導者達のその品格と見識の無さを思うにつけて空しく思えたからです。それでも日本の私大教育者、経営者かと怒りさえ込み上げてきました。

誠実に日々勉学に練習に打ち込んでいる正直な学生達を侮辱したアンフェアーな不正行為を奨励している状態を我々日本人は、何も感じなくなったのでしょうか。このようなまともでない歪んだ大人達のエゴと自己中心的思考が罷り通る日本の教育界とスポーツ倫理の貧困さを改めて考えさせられました。私自身今迄何故気付かず、現実を見ようとしなかったのかと恥ずかしい思いです。

また、同様に日本人選手を非教育的な方法で寄せ集めて走らせるその大學、選手達を美化するマスメデイアも同罪であると考えさせられました。此れもKファイルがこの度我々に事実の情報を提供して下さっているおかげです。事実の情報を人は得る事で、これ程迄に自身の思考力が劇的に進歩するかと改めて情報の重要性と活用の大事さを教えて下さり感謝致します。その一方では、TV、マスメデイアが視聴者、国民、社会に重要な事実、真実を公開してこなかったために我々の脳は活性化されないで退化させられてしまったのでないかと疑念さえ抱かざるを得なくなりました。事実は、何にも勝る真の情報があってだと改めて考えさせられています。Kファイルは、小職にとって大切なバイブルです。 読者より (総合大学教授、スポーツ法学指導)

 

目次

関東学生陸上競技連盟(略:関東学連)の事業(ビジネス)拡大路線

1.大学箱根駅伝大会は学連の中核事業

■企業の投資効果の目的

2.大会スポンサーとテレビスポンサーとの関係

■テレビ局の事業予算の確保と収益確保

3.主催者とスポンサー各社との関係

■素朴な疑問

4.元手0莫大な収益を得る大学箱根駅伝の手法

5.筆者の私見

 

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2020年1月14日、木曜日、公開予定

KファイルNO.149: 大学箱根駅伝とスポーツ・ビジネスの手法

無断転載禁止

関東学生陸上競技連盟(略:関東学連)の事業(ビジネス)拡大路線

1.大学箱根駅伝大会は学連の中核事業

関東学連は、箱根駅伝以外にも複数の事業(関東学連規約:事業第五条)を行っています。しかし、本事業が唯一莫大な収益を上げているビジネスであります。

箱根駅伝を主催する関東学連、共催の読売新聞社は、大学生及び学生選手を商品として、事業(ビジネス)を行っています。そのビジネスの主な収益は、スポンサーシップとテレビ放映権によるものです

スポンサーシップとは、大学競技スポーツのCOREである学生選手が出場、出演するスポーツエンターテイメント(此処では大学箱根駅伝大会)に「金銭的、物的、人的」投資(支援)をする会社・企業を意味します。即ち、主催、共催は、その見返りとして、本大会に於いて企業名、商品名、商品を独占的に露出、提供する機会を与えることを意味しています。スポンサー企業は、大会での直接的な観戦者、間接的なマスメデイア(テレビ、新聞、雑誌、等)を通しての視聴者へと取り上げられる事により投資した以上の宣伝効果を期待しているからです。スポーツのマスメデイア価値が高まるにつれて、企業のスポンサー活動は、投資効果を見極めた積極的な投資事業を展開するのです。

企業の投資効果の目的

これとは逆に、スポンサーシップが投資効果(ROI=Return on Investment)を期待して行われる利潤追求の企業活動に対して、見返りを求めない慈善事業としての寄付活動やバランテイアー活動で、企業の社会的貢献を目的として行われる支援活動のフィランソロフィー(philanthropy)があります。しかし、後者は、投資効果を全く期待していないのではなく、長期的ビジョンにおいて投資効果が大いに見込めるのも事実です。即ち企業がスポンサーをする意味は、投資に対する対価としての見返り、即ち宣伝広告の効果、効率が期待できるからなのです。また、本大会は、「サッポロ新春スポーツスペシャ箱根駅伝」として、日本テレビ系列により独占生中継番組で放映されています。よって、日本テレビは、放映権料として莫大な金額を主催者側に支払っている筈ですまた、日本テレビは、放映権料、製作費、人件費、諸経費の回収をCMスポンサー料によりビジネスを行っている次第です

ご参考までに

箱根駅伝をスポンサーシップする主な会社・企業

特別協賛:サッポロホールデイングス株式会社(サッポロビール株式会社)

協賛  :ミズノ株式会社 トヨタ自動車株式会社 セコム株式会社 

     敷島製パン株式会社

特別後援:日本テレビ放送網株式会社

後援  :報知新聞社

■特別協賛とは、冠協賛とも言われ、冠スポンサー(別名:クラウンスポンサー)と称される本大会(イベント)に一番高額な金銭的な投資をしているスポンサーを意味しています。

➔冠スポンサーとは、テレビ番組や公演、スポーツの大会(イベント)、多目的施設などの名称に企業名や商品名などを冠することを条件に多額の資金と商品を提供するスポンサーの事です。例えば、サッポロビール冠番組として、『★SAPPORO新春スポーツスペシャル 第○回東京箱根間往復大学駅伝競走』として告知しています。

■協賛とは、箱根駅伝の趣旨に賛同し、大会の成功を助ける事が本来の意味です。通常は、協賛の会社がかなりのお金や物(自社の商品)を提供している。

■特別後援は、後援の中で一番金品を出している事が特徴です。此処では、テレビ中継をする事により、本大会を後援し、放映権料を支払う事で主催者に金銭的、放送媒体によるサポートをしている事です。

■後援は、多少のお金や物を出す程度、あるいは名義後援と言ってイベントの権威付けのために名前を貸してもらうだけのことも多いです。本大会の場合は、活字媒体を主体とした、後援を行っていると理解するのが正しいかもしれません。

2.大会スポンサーとテレビスポンサーとの関係

テレビ局の事業予算の確保と収益確保

本大会は、日本テレビにより2日間約14時間生番組(別枠:特集、10月の予選会生中継)として実況中継されています。テレビ・ビジネスは、先ず放映するに当たり番組映像を生産(制作)しなければ商品になりません。そこで制作する為には、多額の予算の確保が必要となるのです(例:中継の為の衛星回線確保、映像送信回線確保、中継基地確保、機材、運搬、テクニシャン、ゲスト、社内外スタッフの人件費、放映権料、等々)。そして、本大会の権利を得るためには、主催者側に放映権料を支払わなければなりません。

CM価格の設定基準

これら全ての諸経費を捻出する為に必要な事業費は、テレビCM・Time(コマーシャルの時間枠)を販売する事により事業費を回収し、利益を上げるビジネスコンセプトであります。また、CM時間帯の料金の設定は、前年度の本番組の視聴率が料金設定の目安となっているのです。よって、本箱根駅伝の大会スポンサーが即テレビのメインCMスポンサーとなっているのです。また、利益を上げる為の方法としては、大会スポンサー以外のスポンサーに営業(セールス)を行い秒単位でのCM販売が行われているのです。

完パケセールは70年代後半に始まる

今日、このような人気のある大会(イベント)では、大会スポンサー、テレビスポンサーを広告代理店が独占販売する事が一般的で、この事を完全パッケージセール(まとめ買い売り)と業界では読んでいます。この方式を取る事で、テレビ局の営業部門へのプレッシャー(負担)が軽減される事にもなります。基本的には、オリッピック、ワールドカップサッカー、等のテレビ・ビジネスも同様なスポーツ・ビジネスコンセプトなのです。但し、大學箱根駅伝では、他の競技スポーツビジネスと異なるのは「観客から入場料収入を得ていない」という点が特徴です

3.主催者とスポンサー各社との関係

 ■此処で素朴な疑問は

本主催者の関東学連は、任意団体であるため情報公開の義務がなく、スポンサーとどのような取り決めを行い、契約を取り交わし契約書にしているかは明らかにされていませんので推測になります通常、本大会に類似したイベント・ビジネスでは、主催者とスポンサー会社、企業間で取り決め、主催者・共催者(権利保有主)とスポンサー各社との間で毎年新しい約束事を契約書に盛り込み、双方で担保する事が常識であります。

関東学連は、スポンサーの広告代理店である博報堂が窓口で代理契約をされている事が考えられます。本大会の商品価値から、他の類似大会と比較した業界の試算では、スポンサー料、放映権料を含めて約6億円前後の収入(2日間のイベントとして)が主催者側に入っている、と推測されているようです

此処で大事な事は、もし主催者の関東学連が広告代理店、スポンサー企業、テレビ放映権料、等を独自でネゴシエーション(交渉)を行っているなら、相手の言いなりの料金でなくハードネゴシエーションを行う事がスポーツ・ビジネスの基本であり鉄則です。しかし、主催者側には、スポーツ・ビジネスの専門家がいるとは考えにくいので広告代理店、テレビ局側の言い値となっているのかも知れません。何故なら、これだけのイベントでは、主催者側にもっと収入が在っても可笑しくないと思えるからです。関東学連は、名前だけの主催者なのかも知れません

主催者の関東学連は、任意団体であり「権利能力が無い団体」とされていますので、このような権利ビジネスに於いて本来契約の主体となり得るのかどうか疑問に思うのは、筆者だけでしょうか。しかし、ここで忘れてならないのは、本大学箱根駅伝事業は、公道を使用し、警視庁、県警、交通機関を遮断、国民の税金を使っての公共事業の一つでもある事です。何故任意団体のビジネスに公共の場と公金による人件費を投入するのか、此処に大学の競技スポーツを経営、運営・管理する立場の教育機関にスポーツ・ビジネスアドミニストレーションの未熟さを感ずる次第です。

4.元手0莫大な収益を得るスポーツ・ビジネス手法

■大学箱根駅伝のファウンダーは誰

読売新聞東京本社は、共催(主催)であり「箱根駅伝」の商標登録権利を保有されている会社、企業であります。即ち、本箱根駅伝の商標は、各加盟大学と関東学連から読売新聞東京本社に帰属していると理解するのが自然でないかと思われます。よって、読売新聞東京本社の許可なくして、箱根駅伝名及び商標が使用できないことになっていると思われます。読者の皆様は、どう解釈されますか。

本来、グローバルなビジネス社会での商標は、箱根駅伝と最初に命名した個人、或は組織にその命名権が発生し通常「ファウンダー」に権利が発生していると解釈されます。よって、途中から突然読売新聞東京本社命名権をファウンダーから譲渡されたという告知も無かったので、今後禍根を残すことになるかも知れません。

箱根駅伝のファウンダーは、何処の何方であったのでしょうか。筆者の深読みでは、新年の大学箱根駅伝のTV中継の中の蘊蓄物語(うんちくものがたり)でこの「ファウンダー」について紹介されないのは主催者への忖度なのかも知れません。

主催者は、読売新聞東京本社と本商標権使用に関する何らかのネゴシエーションが存在し、各加盟大学は既に同意、或は承認している事になります。よって、関東学連は、莫大なスポンサー料から、商標権使用料として読売新聞東京本社に使用料が支払われるのは当然であると思われます。しかし、これでは主催団体が二つあり、形式的には、主催、共催の主従関係に見えるのですが実質は逆のように思えてなりません。現在の姿は、ダブルススタンダートとしての誤解を回避するための姿なのかも知れませんが、読者の皆さんにはどのように写りますか。(ご参考までに:共催の読売新聞東京本社は、2004年に箱根駅伝を商標登録し、その権利を得ています。同時にそれまでの後援から共催に変更されています)

学生競技スポーツは教育的視点から“見える化”状態が不可欠

筆者は、加盟大学が商標登録権を既に手放しているなら、その対価として何を得たのか。そうであるなら主催:読売新聞東京本社、共催:関東学生陸上競技連盟が明快で責任の所在も明らかになるのでないかと思います。

そして、財務の可視化は、加盟大学の責任に於いて主催者との間で約束事の一つとして取り交わし、公開の義務を明文化すればよいと思います。これにより少なくとも財務に関する黒い噂も改善されるのではないでしょうか。

此のことは、学生達の自治活動団体として、純粋に行動、活動している各大学の学生諸氏がどう理解し、同意しているかが非常に重要なファクターの一つになると思われます。本来は、日本の大学競技スポーツは個々の大学の課外活動の領域を大きく超えているので、学連という名の組織、団体の存在自身が形骸化している為にその脇の甘さを見透かされて、企業の罠に落ちて行く構図となっているのが、日本の大学、高校の競技団体の弱点なのです。日本に於ける大学競技スポーツ界では、このような不透明なビジネス・アドミニストレーションがあらゆるところで見受けられるのが最大の特徴と言えます

筆者は、スポーツ・アドミニストレーターとして、主催者がこれほどのビジネスを行っていながら、本大会の商品であり最も大切にされるべき学生選手、バランテイアー学生達に対する、大会期間中の不慮の事故に対する補償が「自己負担と競技規則に明記されている」事が、本主催者達の真の趣旨、目的が透けて見えて来るように思えてなりません。このような補償は、学生選手及び学生バランテイアー、公共施設、等を使ってビジネスしている方々が真摯に、且つ適切に対応することが望ましいと思います

この事実から、主催者、共催者は、学生諸氏、学生選手達のCOREを無料で使用して、莫大な利益を学生達からせ占めている事を意味しています。そのCOREの学生達は、授業料を大学に納付しているのです。此れでは、大学教育の一環、延長線上であるべき大学競技スポーツの大義となり得ないのではないでしょうかこれが大学箱根駅伝に関する経営、運営、管理に関するアンフェアーな実態なのです。このようなマネージメントをする時代ではなく、一日も早く日本の大学競技スポーツに「Justice正義とFairness公正」を基盤としたスポーツ・アドミニストレーションが構築される事を願う次第です。

5.筆者の私見

 上記論点に関し、大学経営者、管理者、またスポンサー関係者からも、どなたからの指摘も、改善の声すら聞こえてこないのは、残念でなりません。

各大学の代表者がもう少し真摯に教育者としての強い見識を持たれて、学生、学生選手達の視点に立って大学箱根駅伝の指導、運営、管理を今再構築する大きなターニングポイントに来ていると思います。そして、教育の一環、延長線上にあるべき大学競技スポーツに豊かな見識を持たれている人達が、大学箱根駅伝の組織をオーガナイズする構造とシステムの必要性も今問われているのではないでしょうか。本大会は、将来に於いて関東地域限定の大会でなく日本全国の大学が参加できる大会に解放されることが教育の視点から正しい方向性であると確信致します。

主催・共催者は、数年前から新たな箱根駅伝に付帯する事業として、毎年10月に箱根駅伝予選会を日本テレビによる実況中継にスポンサーを付けてビジネスを拡大して行って居るのはご承知の通りです。

毎年主催者には、箱根駅伝による莫大な収入が入って来ていますが、学生、大学に還元される事無く、収益をどのようにされているのでしょうか。これは、筆者の素朴な主催者、共催者への疑問です。これらの現実的な実態に付きましては、次回詳細を述べさせて頂く予定に致しております

筆者が、学生選手、大学箱根駅伝に興味を持ち始めたころから関東学生陸上競技連盟については、不透明な金銭的な暗い噂を常に耳にしてきた記憶が蘇って参ります。大部分の学生、選手達の純粋な情熱とは真逆な大人達の思惑と現実の中で、日本の大学競技スポーツの将来が今日もなお光明が見えない理不尽な障壁を強く感じているのは筆者だけでしょうか

文責:河田弘道

スポーツ・アドミニストレーター

スポーツ特使(Emissary of the SPORTS)

紹介:Gファイル「長嶋茂雄と黒衣の参謀」文芸春秋社 著 武田頼政

お知らせ:

次回のK’sファイルは、大学側の経営者、教学管理者が大学箱根駅伝をどのような位置づけでテイーム編成、学生選手強化を行っているのかをご紹介します。これにより日本の大学競技スポーツが、どのような見識の経営者、大学教学責任者により教育されているかの現実を知る事になるかも知れません。