KファイルNO.160: 東京五輪は斯くあるべきだった

KファイルNO.160: 東京五輪は斯くあるべきだった

無断転載禁止             毎月第二、第四木曜日掲載予定

筆者からのお知らせ~

いつも読者の皆様から沢山のコメント、読後感、ご意見を賜り深く感謝申し上げます。2017年Kファイル公開時より、筆者は、東京五輪開催については賛成であることを先ず明記させて頂いていました。但し、スポーツ・アドミニストレイターとしての視点で本国家的スポーツイベント・プロゼクトに付いての問題点、疑問点を招致活動当初より厳しく述べさせて頂いております。

2020年初春以来の重度の疫病蔓延下での東京五輪開催、中止に関しての賛否に付きましても真面な議論が政府、TOCOPG、東京都、JOCに於いてなされる事はありませんでした。また、TV、マスメデイアに於いても論理的且つ明快な情報は、国民、社会になされないまま、今日政府の見切り発車的な戦略に乗せられて開催日残り30日に至っている次第です。

開催にしろ、中止にしろ、延期にしろ、Kファイルは「その判断と決断の基準となる、それらの根拠をスポーツ医科学的な知見で説明する事が大事」で、そうしなければ競技スポーツのビジネスも運営、管理に関するマネージメントも成立しないと述べている次第です。「Justice &Fairness」は、競技スポーツの基軸であります。スポーツ・アドミニストレイションの「共存共栄の原理原則」は、スポーツ・ビジネスアドミニストレイションに於いても不可欠です。ご理解して頂けていますでしょうか。

即ち東京五輪招致活動より今日に至る重要な問題の主たる要因は、スポーツ・アドミニストレイションを根幹にしたスポーツ・アドミニストレイターの不在が今日混乱を引き起こしている事に気付いて頂きたい次第です。その為にもこのように何度もロス五輪のP・ユベロス氏を例に、このような強いコンセプトと信念を持ったリーダーが必要かつ不可欠であることをご紹介させて頂いています

NO.160は、少し長文となりました。読者の皆様には、前半と後半に分けてご笑読下されば幸いです。筆者より

 

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読者からの便り~

KファイルNo158拝読いたしました。今週も東京五輪を巡ってIOC重鎮たちの人種差別ともとれる傲慢な態度や、五輪憲章などどこ吹く風的な武藤五輪事務総長の「経済効果」発言、と冷静ではいられなくなるようなニュースばかりの中、ようやく朝日新聞がスポンサー企業でありながら「中止提言」と焼石に水ではありますが、そういった声が上がるようになりました。しかし、先日は山下泰裕会長(JOC東京五輪組織委員会副会長、等)の「選手は努力してきたのだからやらせてあげてほしい」発言を報道で見て、ああ、この人も競技だけやっていればいい、で育ってきた人だったんだな、と今更ながら再認識致しました。同様な環境の下で育ったのですから、Kファイルで取り上げられている室伏広治氏も役職を沢山抱え込んで、どうしてよいのか解らないのも理解できました。 

大学教員を13年やった経験から、その底辺も「文科省がいうから」でしか動かない教育界、スポーツ界というのも十分承知しております。もう本当にこの国のスポーツの未来に絶望感すら感じる気がします。東京五輪後、スポーツが世の中からどう見られるか、それを思うと不安で仕方ありません。政治家達による東京五輪の暴走を我々スポーツ関係者が止められないのでしょうか。我が国のスポーツ医科学専門分野の関係者の意見を述べる場も与えられない東京五輪とは、一体何のために開催国となったのか。誰もが声を上げないのも、これら政治家、関係者達と同罪なのかも知れないと思います。

読者より(大学教員から現場に戻ったスポーツ医科学専門家)

 

目次

偽りプレゼンを論議しなかったのは組織委員、評議員達の重大過失か

先ず初めに

1.1984年ロス五輪大会は近年の成功モデル

  ■P.ユベロス氏の手法と決断力

  ■P.ユベロス氏の宣言

  ■新しいスポーツ・ビジネスの理念と明快なコンセプト

  ■権利の重要なポイント

2.ユベロス氏の成功の秘訣と着眼点

  ■広告代理店の選定

3.何故広告代理店に電通を選定したか

4.LAOOCが電通に与えた対価とは

5.P・ユベロス氏のキャリアと頭脳センスの勝利

  ■GIVE&TAKEの取引成立

まとめ

 

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2021年6月24日    公開

KファイルNO.160:東京五輪は斯くあるべきだった

無断転載禁止

偽りプレゼンを論議しなかったのは組織委員、評議員達の重大過失か

先ず初めに

16年招致活動の大義は、確か「震災復興」を掲げました。そして20年招致は、これまた震災復興を掲げてのプレゼンテイションがなされたのです。費用の掛からない無駄のない、コンパクトなオリンピック・パラリンピック東京大会は、招致の為の旗頭と謳い文句に掲げてきました。しかし、いつの間にか大義の震災復興は、何処かに消え、予算は、とんでもない莫大な公金(約4兆円)が実費として流し込まれ続けているのです。

筆者は、2020東京五輪招致時のプレゼンテイション通り、20東京五輪組織委員会(略:TOCOPG)、東京都は実行運営・管理を遂行するべきであったと思います。その骨子は、プレゼンで発表した予算は7700憶円であったと記憶しています。そして世界1コンパクトなオリンピック大会と会場が謳い文句で無かったか。それを遂行する為の経費は、民間資本(国内スポンサーシップ)で十分賄えた筈でした

しかし、公益財団法人2020東京五輪組織委員会の評議委員会も理事会も偽りのプレゼンについて何も論議しなかったのは重大な過失と申し上げるしかないと思います。これから再度ご紹介致します嘗ての1984年開催されたロス五輪大会のロス方式を何故検討もせず、背を向けて過去五輪最大の4兆円も掛けた五輪開催に極端に傾いて行ったのか、委員達の誰も指摘しストップすらしなかった。

確か現小池百合子東京都知事は、この問題の改善を選挙公約の一つで勝利した筈でしたが、派手なパフォーマンスをすれども実態は何も改善できず肥大するのをただ黙認した次第です。

4兆円の明細書は、いつどのような方法で国民、社会に公益財団法人として公開されるのでしょうか。1998年の冬季長野五輪関係者のような犯罪行為「全ての重要書類を大会後焼却処分した」との事でしたが、誰も何の罪にも問われなかった。東京五輪は、よほど国民・社会が監視しなければ同じことが繰り返される体質と関係者であることをスポーツ・アドミニストレイターとして申し添えたい。

プレゼン当初の予算告知額(7700憶円)は、いったい何を根拠に試算された数字であったのか、最初から予算告知額は、結果として招致を通すための偽りの予算提示に過ぎませんでした。残念ながら招致委員会、組織委員会も、このような重大且つ莫大な国家予算を扱うに当たっての公益財団法人に査察機関さえも設置されていないようです。これらを精査もせず、政府、省庁は、法人認可を承認してしまったのです。

この宴の後には、また先日のような人命の犠牲者が出るのでないかと危惧する次第です。現関係者(IOCを含む)の誰一人もが偽りのプレゼンに対する異議も、精査の必要性も事実の検証も全く興味を示さない人達により東京五輪は今日を迎えている事を忘れてはならないと思います。

 

1.1984年ロス五輪大会は近年の成功モデル

P.ユベロス氏の手法と決断力

84ロス五輪大会組織委員会(略:LAOOC)の委員長は、選考基準の公開や、

選考方法の事前告知を経て、応募者600名の中から厳重な審査の基に選考されました。重要な選考委員会は、ロサンゼルス市民を代表する審査委員の選考に於いて、利害、利得を得る可能性の低い、その分野と社会、市民からリスペクトされている人物(マイノリテイを含む)がフェアネスを基に選出されました。勿論、審査委員に対する報酬は無く、日本的な第三者委員会とは異なり純粋な市民の代表が審査委員でありました。

2020年東京大会の組織委員会・会長は、どのようにして選考されたかご存知ですか。少なくとも私は、存じ上げません

東京五輪組織委員会は、会長の選考方法も情報公開も国民、都民にはなされず、いつの間にか森喜朗氏が鎮座してしまったような記憶しかありません。この事からも我が国は、自由主義国家としてグローバル化を声高に叫びながら実は伝統的な隠蔽体質と談合体質から抜け出せない悲しい現実が、21世紀の今日も尚、現存している証です。このような現状と体質は、いつまでも改善される事無く続いているという社会構造のままです。国民は、このような実態について良しとは思っていません。しかし、国民の安心、安全を確保する唯一の「正義と公正」に対しては、発言も行動もしないという現実を本東京五輪プロゼクトを通し生きた教材として教えられています。

この事からも真の自由主義国と21世紀に於いても今尚社会主義国家体制と揶揄、比較されて仕方のない我が国の政治、社会であることを国民の我々も読者の皆様も認めざるを得ないと思いますが、如何でしょうか。

 

P.ユベロス氏の宣言

P・ユベロス氏は、「このオリンピック大会開催では、アメリカ合衆国カリフォルニア州、ロサンゼルス市の公金である税金を1セントたりとも使わず、黒字化する」と委員長就任時に掲げ宣言したのです。

一方2020年東京五輪組織委員会・会長の森喜朗氏は、就任時に「現在の開催に必要な予算では十分でない」と資金投入の必要性を声高に掲げ、まさにユベロス氏と対極のリーダーであったことを皆さんはご存知でしたでしょうか?何故、レガシーの必要性を声高に唱えて、箱物の建設をむやみやたらと推進したのか? 東京五輪招致の本音は、自身のレガシー即ち箱物をむやみやたらと建設する事で公金をバラまく事に有った様に思われてなりませんでした。この目的は、既に完了しています。

新しいスポーツ・ビジネスの理念と明快なコンセプト

P・ユベロス氏の着眼点を示すのに、分かりやすい有名な言葉があります。それは、「オリンピックに必要なのは、競技場でなく、その競技場に何台のカメラを持ち込めるかだ」と断言したのです。これは、まさにビジネス・アドミニストレイターとしてのクリエイテイブな発想の証しであります。

P・ユベロス氏の新しいスポーツ・ビジネスの理念と明快なコンセプトとは、「権利=Right」を最大限生かす為の手段と方法に特徴がありました。

そのコンセプトは、何かが「制限」されて初めてその「制限を制限すること」ができる。つまり「権利」の意味が生じることです

権利が与えられても、権利を持たない者との区別がなければ、やはり意味はないのです。権利の有無により区別が無いなら、なんとかして「差別化」を図って区別を作り出す事が必要であると考えたのです。権利を持たない者に対しては、制限を強くする程、その「制限を免除される権利自体の価値が高くなる」ことは明白です。誰もが使えると言うのは、誰にも使えないというのと同じに、その使用自体には価値が生じないのです。

権利の重要なポイント

「権利」という商品は物理的に存在しないのです一般の商品とは性格が異なる点に着眼したのです。無体財産権」は、「知的財産権」とも呼ばれ、知的にしかその存在は認められないのです。その意味は、「権利=Right」の質、価値は、価格(お金)でしか評価できない」と言う事を実践して見せたのがユベロス氏なのです

即ち、スポーツに権利ビジネスを持ち込んだのがユベロス氏のスポーツ・ビジネスアドミニストレイションの特徴なわけです。(以上、同氏のビジネスコンセプトより)

このようにP・ユベロス氏は、確りとした論理的なコンセプト基盤を持って実践された、いわゆる知的戦略、戦術家であったと思います

2.ユベロス氏の成功の秘訣と着眼点

ユベロス氏は、「オリンピックに必要なものは、大きな競技場ではなく、問題は、その競技場に何台のテレビカメラを入れられるかだ」と断言したのです。

①一つ目の着眼点

彼の視点は、スポーツ・ビジネスを如何にして実践し、成果を出すかの徹底したコンセプトが伺えます。それは、オリンピック自体をテレビ放送用のスポーツ・エンターテイメントとして位置付け、放送権利の売買を行うビジネスの道を開拓したのです。この大会以降、スポーツイベントの放送権料が右肩上がりを始めたのは、ユベロス氏の功罪のうちの罪の部分であるところと言えます。

 

②二つ目の着眼点

スポンサーシップという形で民間資本を活用する事が、唯一の財源を確保する術であると位置づけた事です。そして、その為には、巨大な広告代理店(Advertising Agency)の協力とその活用方法に着目したのです。

重要項目の一つの民間企業から得るスポンサーシップに付いては、権利をより強固にするため、一業種一社制を取り入れた事です。これにより、スポンサー広告の価値はより効果的且つ、競争原理導入でより効果が高まる事を期待したのです。(例:車のスポンサーは、世界で一社のみ)

広告代理店の選定

広告代理店には、ビジネス的な権利を与える代わりに、ロス大会を成功させるために必要最低限のギャランテイー(保証)方式を取り入れて、大会成功の財政的な基盤を担保させた事でした。その為には、代理店を先ず選考、指名することを最優先としたのです

ユベロス氏は、当時日本がバブル経済を迎え、日本企業がまさに海外にマーケット(市場)を求めている事を強く認識していました。そのため、ターゲットとして日本の広告代理店「電通」を心の底では期待していたのではと推測します。しかし、誰にも心中を明かさず、彼の賢さが伺えます。そこへ、まんまと飛び込んでいったのが電通でした。P・ユベロス氏に直接、接触を求めて行ったわけです。

3.何故広告代理店に電通を選定したか

   P・ユベロス氏と広告代理店電通との関係は、元々縁もゆかりもありませんでした。よって、ユベロス氏は、最初から電通ありきで動き出したわけではなかったのです。ユベロス氏のビジネスコンセプトに米国の広告代理店制度(AE制度)は、不都合であった

①AE制度とは

米国の広告代理店制度は、日本とは異なり非常に厳しい制度の下で成り立っている業界です。その最大の特徴は、米国の広告代理店は、AE(Account Executive)制度が法律によって守られており、即ち一業種一社制度の事なのです。一業種一社とは、一つの広告代理店が同じ業種の代理店になれない事を意味しています。例えば、A広告代理店がフォード社との代理店契約をした場合は、同じカテゴリーのトヨタ社の代理店にはなり得ない事を意味します。

つまり、米国の広告代理店ではスポンサーセールスに於いて、ユベロス氏が考えるような競争原理を活用する事が出来なかったのです。それに比べて、日本の広告代理店制度は、AE制度がなく各広告代理店が一業種一社の枠を超えた一業種複数社制度であったため、好都合であったのです。即ち、日本の広告代理店は、例えば車の業種に於いてトヨタ、ホンダ、日産、マツダ、鈴木、等と何社でも取り扱えるという意味です。丁度、この時期のIOC規約、規則には、この種の規約、規則が無く、今日のIOCに於けるこの種の規約、規則(TOP)は、84ロス五輪を参考に85年以降に出来たルールなのです。

電通内部の葛藤

電通内部に於いては、一枚岩で在った訳でなく電通組織の体制、体質から内部での競争、闘争は激しく、常に群雄割拠の中で、やるかやられるかのパワーゲームが横行していました。つまり、戦略的な内部組織構造であったわけです。

此れを称して、業界では、電通方式と呼ばれています。これは、筆者が所属していた当時の西武、国土計画の会社・企業コンセプト(企業内に於ける競争の原理原則を活用)とも酷似しています。この企業コンセプトを取り入れることは、企業内外に於いてハイリスク・マネージメント並びに危険なモラルハザードを起こす要因になる可能性を含んでいる事を忘れてはならないのです

 既に当時から米国に於いては、各競技スポーツのトップアスリートを内外からかき集めたスポーツ・エイゼンシ―(スポーツ代理店、IMG社:International Management Group)を立ち上げ活動し始めた時期であったのです電通内部の本プロゼクトのオリジナルグループのプロデユーサーは、服部庸一氏を中心とした営業企画室グループでした。しかし、別の社内グループのリーダーは、本来のグループの機先を制するが如く、このスポーツ代理店のCEO(最高経営者)のマーク・マッコーマック氏(Mark McCormack)を対LAOOCのP・ユベロス氏のネゴシエーター(交渉人)とするべく動き出したのです。

しかし、この動きの情報を既に察知したP・ユベロス氏は、電通とIMGに対して“NO”の警告を発したため、IMGを前面に立てようと策を弄した電通内の別のプロデユーサーの画策は、事前に潰されたのでした。後にこのプロデユサーは、電通を離れて何故か体育学部のある私大に移籍。これにより今迄以上にユベロス氏と服部氏との関係は、絆を深め、服部氏は社内の闘いを制していよいよ本格的な交渉へと駒を進めたのです。

4.LAOOCが電通に与えた対価とは

ユベロス氏は、さすが一筋縄では行かないビジネス・アドミニストレイターであり一流のネゴシエーター(交渉人)でもあったのです。ビジネス交渉が具体的に動き始めたのは、確か1979年秋ではなかったかと思われます。此れは、電通側の焦りが、プロのネゴシエーターであるユベロス氏の罠に入っていくことを意味します。此処で付け加えますと、LAOOCの唯一の総責任者は、P・ユベロス氏であり、対電通に対するネゴシエーターでもあった事がこの人物の強烈な個性とパワーを感じさせる次第です。

ここが20年東京五輪大会組織委員会の会長のような神輿に鎮座して、全ての実務は、他の政治家、役人、企業人にやらせる手法とは異なり、P・ユベロス氏は、真に全ての指示、最終決断を自らの責任に於いて実行、遂行するビジネス・アドミニストレイターだったのです。よって、他意の在る第三者に隙を与えなかった強い信念の持ち主であったからです。

①最終的に、ユベロス氏が電通側に手渡した権利の中身

1.公式マスコット、エンブレムを使ったライセンス権

2.公式スポンサーとサプライヤー

3.アニメ化権

4.入場券取り扱い権

以上が合意事項であり、放映権、入場料収入権は、与えられませんでした。此れもユベロス氏のしたたかなプロのネゴシエーターの一面だったと思います。

大義達成の為の準備

ユベロス氏は、本大会委員長を受託した後、早速に手掛けたのが大会を成功させる為に必要な自身が掲げた大義を如何にクリアーするかでした。

それは、「公金は使わない、黒字にする」のハードルを越えなければ自身のコミットメントを解消できないことを十分に承知していたのですそこで先ずは、予算を概算でなくアクチュアル(本当に必要)な数値を設定したのです。この数値(金額)目標を電通にコミットさせれば、その時点でユベロス氏の勝利となり、ゲームオーバー(勝負あり)となると試算して、対電通とのネゴシエーションに臨んだのです

5.P・ユベロス氏のキャリアと頭脳センスの勝利

P・ユベロス氏は、当時バブル期を迎えていた日本経済に目を付け、広告代理店をLAOOCの公式広告代理店に指名したのです。日本の広告代理店は、電通でした。何故博報堂、その他でなかったのか。

GIVE&TAKEの取引成立

ユベロス氏と電通の間では、双方丁々発止のネゴシエーション(交渉)が積み重ねられ、最終的に、ユベロス委員長は、電通の提示に満足し、組織委員会(LAOOC)は電通側のギャランテイー(保証)を担保し、リスクマネージメントを回避、スポーツ・ビジネスとしては、ここでユベロス氏の一大勝利となったのです。即ち、P・ユベロス氏が提示した権利(1,2,3,4)を電通に渡す対価としてLAOOCの赤字の可能性は、無くなった事です。此れで、ロス大会開催前に大会予算は、電通により保証(ギャランテイー)を担保させ、後は、黒字化を考えるだけとなったのです。

最後に黒字化の最大の要因は、ユベロス氏が最後まで電通側とのネゴシエーションから切り離して渡さなかった、TV放映権、及び入場料収入(テイケット収入)が彼の最後の国民、州民、市民に公約した黒字化の要因となったのです。そして、本黒字となった財源(440億円)は、全てカリフォルニア州、ロサンゼルス市の社会厚生施設に還元されたのです。

このように三十数年前に、P・ユベロス氏に寄って公金を使わず、民間資本のみにてオリンピック大会を招致、開催したスポーツ・ビジネスアドミニストレイションのモデルを完成させていたのです。

 以上「河田弘道のスポーツ・アドミニストレーション論:現代のスポーツ・ビジネスの巨大化原因とその歩み編より抜粋~」

まとめ

 P・ユベロス氏は、本スポーツ・ビジネスアドミニストレイション手法により、市、州、連邦の政治家達の利権へのつけ入る隙を与えなかった事で余計な利権絡みのスキャンダル、疑惑、等からも大会組織委員会並びにロス五輪をクリーンなイメージを確保した事は隠れた最大の功績として、今も尚関係者、市民、州民から称賛されている次第です。また、此の事は、無駄な予算、意味不明な人件費、諸経費の節約に直結していたのでした。

そして、同氏のアドミニストレイターとしてのセンスは、此れだけにとどまらずロサンゼルス市民に対して財務状況を定期的に情報公開する気配りを忘れなかった事です。これは、彼が組織委員会・委員長に任命された時に選考委員会、組織委員会との間で取り交わされた「契約書」を誠実に遵守した証しでもあるのです

2020東京五輪組織委員会・会長には、責任者としての所在を明確にする契約書なるものがあるのであれば、公開する義務があります何故ならば、本20東京五輪組織委員会は、公益財団法人である事から明文化された書面があってしかるべきだと筆者は思う次第です。しかし、日本式談合文化は、契約書なる書面は自身、関係者の首を絞めるような証拠は残さないのです。これでは、もう国際社会から疎んじられるのも無理からぬことでしょうか。

我が国には、残念ながら2020年東京大会開催に於けるロードマップを完成できるスポーツ・ビジネスアドミニストレイターが居なかった、という事ではないかと思われます。

そして、結論として何故東京五輪に関与する政治家及び、関係者がロス方式に興味を示さなかった真意を読者の皆様には理解されたのではないでしょうか現在関係されている組織員会、JOC、東京都の関係者には、理解できている方が見当たりません事を申し添えます。

文責:河田 弘道

スポーツ・アドミニストレーター

スポーツ特使(Emissary of the SPORTS)

紹介:Gfile「長嶋茂雄と黒衣の参謀」文芸春秋社 著 武田頼政

お知らせ:次回は、何故電通はP・ユベロス氏に近づけたのか、如何にして電通は、今日の世界のスポーツ・ビジネス(オリンピック、ワールドカップ・サッカー、世界陸上、等)を一手にできたのか、そこには、電通のプロデユーサーの参謀役戦士が居た。華やかな舞台裏には、何かが匂い、何かがうごめき、そこには必ずひっそりとシャドーマン(影の人)が寄り添っている。