KファイルNO.177:私大学校法人制度改革に抜け道は必要か

KファイルNO.177:私大学校法人制度改革に抜け道は必要か

無断転載禁止                          毎月第二、第三木曜日 掲載 予定

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スポーツ・アドミニストレイター

日本にスポーツ・アドミニストレイション論

日米で実践してきたスポーツ・アドミニストレイター

の先駆者(プロフィールは別途ご検索下さい)

 

読者からの読後感便り

河田さま

こんにちは。NO.176 拝読しました。

私には「疲れる」といった読後感はなかったですね。むしろ、この重たいテーマをこのタイミングで取り上げた、(適切な表現が思い当たらないのですが)河田さんの勇気みたいなものを強く感じました。それだけ「防衛」に関する言及ひとつによって、その人のレッテル貼り(右だ左だ)が横行するのが、残念な日本の一面ですから。

核大国ロシアがその力を当初からちらつかせて、ソ連崩壊後、核兵器廃棄をせざるを得なかった丸腰のウクライナに軍事侵攻した瞬間、戦勝国かつ拒否権を持つ国際連合常任理事国中心による統治が無力化したことを深刻に捉えるべきだろうと私は思っていました。 拒否権を持つ常任理事国は、何をしても咎められないわけですから・・

未だに厳然と残る戦勝国中心の国際秩序の残滓や河田さんご指摘の日米安保条約不都合な真実の部分など、日本人は自分たちの置かれている状況をもっと冷静に考えるべきだし、その意味では、政府と国民の間の(無知なるが故の)意識ギャップを埋める努力や加えて、どう国を守るのかの議論を積み重ねる必要があるということは全くの同感です。「核共有」という結論的表現にエキセントリックになるのではなく、議論というプロセスを経て、意識の共有化を図り、何が国民にとって、ベスト、ベターなのかを詳らかにすることが、混沌とした情勢の中では非常に重要な意味を持つのではないかと思います。(本来は、平時にこういったことを実行しておくべきだったのは、もちろんですが)

議論の結果、最後はルールに則り結論を出せばいいわけで、某左派系政党のように、議論すら許さない、とかは、自分の意にそぐわない議論はしないことと同義であって、議員の仕事の放棄を意味し、民主主義の否定に通じます。

日本人のほぼ100%は戦争反対だと思っています。しかし、残念ながら自分たちと同じ価値観を持っている人ばかりでないのも、また真実です。例えが適切かわかりませんが、かつての日本ですら軍部のクーデター未遂として歴史に残る、「話せばわかる」に「問答無用」と答えたと言われる暗殺事件がありました。もちろんここに至るまでにやるべき最善は尽くさねばならないですが、最後に、人間の狂気にどう対処するのか、は決して避けてはいけない歴史の教訓のような気がしています。重く受け止めた読者より

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筆者から読者へのご返信

貴殿の読後感を拝読させて頂き「なるほど」と気付かされることが多々ございます。NO.176への貴重な読後感、ご意見を沢山頂いております。

物事の核心を突かれると何か関連する事に心当たりのある人は、それに素早く感情的に反応する事も人間の心理であり弱点でもあります。読者様の中には、権力を振りかざして来られてきた方々が多々いらっしゃるようです。この様な方々の中には、狭い視野でしか物事が見えない測れないので感情論が表に湧き出るのでしょうか。貴殿からのお便りは、大変分かりやすい冷静な読後感を賜り有難うございました。貴殿がご指摘のように小生は、右でも左でもない只日本国と民の健康と安全を最優先する事を願う一国民です。 深謝

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目次

KファイルNO.177:私大学校法人制度改革に抜け道は必要か

“最終的に文科省は再度大学法人にガバナンスを丸投げか”

1.文科省は今こそ強いリーダーシップが必要

経緯並びに概要

■学校法人制度改革特別委員会の委員構成及びその目的

 学校法人制度改革特別委員会委員名簿

文科省は報告書案を了承

■特別委員会の報告書(提言)概要

■報告書の重要ポイント

2.筆者の素朴な疑問

  筆者の私見

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2022年4月14日 木曜日                 公開

KファイルNO.177:私大学校法人制度改革に抜け道は必要か

無断転載禁止              毎月第二、第三木曜日 掲載予定

 

“最終的に文科省は再度大学法人にガバナンスを丸投げか”

1.文科省は今こそ強いリーダーシップが必要

経緯並びに概要

KファイルNO.173では、「私大改革の諸悪の根源は何処か」をテーマに述べさせて頂きました。読者の皆様からは、貴重且つ有意義な読後感、ご意見を賜りまして誠にありがとうございました。

本テーマに関し文部科学省(略:文科省)は、文科大臣の名の元に日本大学の不祥事を契機に漸く重い腰を上げたのが、①2019年でした。そして②2020年1月に本件に関する有職者会議を設置しました。その後、③2021年7月に「学校法人ガバナンス改革会議」なる諮問機関をスタート、④同年12月には、報告書(提言)を文科大臣宛に提出させた次第です。しかし、⑤本報告書に対して私立大学側が「私大の健全な経営と教育研究の発展を阻害する」等々と反発したのでした

このような混乱を来した事から、文科省は、⑥新たに三度目の「大学設置・学校法人審議会学校法人分科会」なるものを立ち上げ、⑦本分科会に「学校法人制度改革特別委員会」を設け、⑧「学校法人制度改革の具体的方策について」の最終報告書(提言)を2022年3月17日に文科省に提出させ、3月29日付で報告書を公表された次第です

文科省は、本特別委員会の報告書を持って今日迄「学校法人ガバナンス改革会議」報告書(提言)と私立大学側の間で起きていた問題の齟齬(そご)に意見の一致を見たとの事で、今後文科省は本報告書に沿った内容を持って、同法の改正案を今国会に提出する運びになっています。本報告書は、16ページ(A4)に渡り、「1.私立学校法人と学校法人の独自性、2.学校法人の機関構造設計の基本的視点と規律上の工夫、3.学校法人改革の具体的方策」を軸に構成されています。

筆者は、特別委員会の提言が果たしてどれ程の実行力が在るのか、私大側は改善、改変されたガバナンスを本当に遵守できるか、ガバナンスの遵守の確認の有無をどの様に、誰が、いつチェックするのかに付いて、明文化された詳細が本報告書に明記されていないように思えてなりません。

同様にガバナンスを改善、改革してもそれらに対する罰則が明記されないのでは、何の抑止力にもならず、人は約束事を交わしても約束を破るのが人間であることの原理原則に反した「中途半端」な制度改革では、再発の防止にもならないと思えてなりません。委員会の委員の皆さん、そして主査を務められた福原紀彦氏は、どの様なお考えてまとめられたのでしょうか

■学校法人制度改革特別委員会の委員構成及びその目的

   学校法人制度改革特別委員会(略:特別委員会)は、13名の委員が推薦、任命されています。(内1名は、主査を兼務)。

特別委員会は、①学校法人分科会3名、②有職者3名、③私立学校団体代表者7名により構成されています。内主査は、①から選出されています。

本委員会設置の趣旨・目的は、近年度重なる私立大学、大学法人の運営管理の不祥事に起因した事件が多発し、学生、教職員のみならず国民、社会に多大な損害と不安を与える社会問題と化している事から、私大の経営、運営、管理を司る学校法人の特に監督権限と責任の所在の明確化、透明化を目指すところに主眼を置いた制度改革であると理解致す次第です。

学校法人制度改革特別委員会委員名簿

委 員:13名 ◎:主査

【学校法人分科会】

佐 野 慶 子 公認会計士

西 岡 佳津子 (株)日立製作所 取締役会室長

◎福 原 紀 彦 中央大学法科大学院 教授・前学長、弁護士(マリタックス法律事務   所)、(一財)私学研修福祉会 理事長、(一社)大学スポーツ協会(UNIVAS) 代表理事・会長

有識者

梅 本 寛 人 弁護士(京橋・宝町法律事務所)

尾 崎 安 央 早稲田大学法学学術院 教授

米 澤 彰 純 東北大学 国際戦略室副室長・教授、総長特別補佐(国際戦略担当)

《私立学校団体代表者》

田 中 愛 治   (一社)日本私立大学連盟 会長、早稲田大学 総長

小 原 芳 明    日本私立大学協会 会長、玉川大学 理事長・学長

川 並 弘 純  日本私立短期大学協会 常任理事、聖徳大学短期大学部 理事長・学園長・学長

嵯 峨 実 允  日本私立中学高等学校連合会 常任理事、学校法人藤華学院 理事長

重 永 睦 夫  日本私立小学校連合会 会長、東京都市大学グループ学校法人五島育英会 評議員、前 東京都市大学付属小学校 校長

尾 上 正 史  全日本私立幼稚園連合会 副会長、学校法人福岡幼児学園 紅葉幼稚園 理事長・園長

福 田 益 和  全国専修学校各種学校総連合会 会長、学校法人福田学園

理事長

(令和4年1月6日時点)

▶本名簿は、2022年(令和4年)3月29日に公表されました、学校法人制度改革特別委員会発行の最終報告書から引用した名簿です。何れも敬称略。

文科省は報告書案を了承

 文科省は、本年1月に大学設置・学校法人審議会学校法人分科会に「学校法人制度改革特別委員会(略:特別委員会)」を設置しました。本特別委員会の主眼は、学校法人のガバナンス(統治)を強化するその策を検討する事でした。

特別委員会は、3月17日に「学校法人制度改革の具体的方策について」の報告書(提言)を提出し大筋で了承を得たとのことです。

本提言には、私大法人の理事会に対する評議員会の監督権限を持たせ強化する事を軸として、私大法人に多発している贈収賄罪、特別背任罪を新設する事も盛り込んでいる所が改正ポイントなのかも知れません文科省は、提言書に沿った方向で法人改正案を精査した上今国会に提出する方針を固めたようです。

■特別委員会の報告書(提言)概要

 学校法人制度改革の基軸は、①私立学校が社会の信頼を得て一層発展して行く事を目す②学校法人の沿革、多様性にも配慮し、実効性ある改革の推進が必要③不祥事に対する再発防止策が必要

このような改革の具体策に付いては、「関係者の合意形成を図る場」として、有職者委員、学校種ごとの私立学校関係団体を代表する委員の参画を得て、本年1月に設置し、この度の委員会からの報告書の提出となった次第であったことを、報告書の最初に明記されています。

KファイルNO.173に於きまして、私大ガバナンス改革会議の報告書(提言)と私立大学側の反発意見に付きましては、読者の皆様には既にご理解、ご承知の通りと理解させて頂きます。

■報告書の重要ポイント

特別委員会では、関係者双方の間での意見の相違が大きかったので、主な論点の制度を具現化し各私立学校関係者に紹介、委員を構成していない関係団体からも任意に提出された意見書も参考に議論してきたことも付記されています。

1)学校法人の機関設計の在りか方については、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」と改革理念に基づいた、「建設的な協働とけん制関係の確立」により、学校法人の円滑な業務執行、私立学校を取り巻く広義なステイクホールダー(支援者、投資者)の意見を反映、法令、社会規範を逸脱した業務執行の防止・是正を目視して行くことで特別委員会内でのコンセンサスは一致確認された事も明記されています。また、本報告書には、「実効性ある改革」を具体的且つ実現すべき事項を中心にまとめたものである事。法律案以外にも、理事の選任方法、各法人の寄付行為の在り方、審議会での寄付行為の見直し、各関係団体のガバナンス・コード改訂、自主性、努力、実行を強く求めています。しかし、罰則規定は、見当たらず。

2)本報告書の主要ポイントの1つでありました、大学法人理事長への権限集中、また現行制度から評議員会が理事長の諮問機関と位置付けられて構造的な問題を起し、本来のチェック体制が機能していないことから、形だけの実態を防ぐ改正案を提言しています。これらは、政府、文科省庁が私大理事長に権力を与え、それを法的に保護したことにより、私大法人が本来は文科省の監督、管理責任を私大法人理事長が担うようにしてしまったことに起因している事を特別委員会も触れてない事は重大な忖度勘定と思われても説明が付かないと思います。

3)法令違反等を起した理事の解任は、評議員会の関与を強化すると共に理事会等に解任請求ができ、放置された場合は訴訟を起こす事が出来るとしています。また、理事と評議員の兼務は禁止と明記されています。重要事項の決定は、理事会だけでなく評議員会の議決が必要とされています。

4)評議員の選考方法は、一定の上限を設け理事会による選任や現職の教職員の就任は認められる、とされています。此れでは、襟を正した事に成り得ず、理事長、理事会には相変わらず強い権限を与え文科省の役割を担わせていると思わざるを得ないのです。

2.筆者の素朴な疑問

本来私大学校法人のガバナンスを歪めた主因は、文科省が私大法人理事長に権力を集中させた事に起因し、今日の様な乱れた不正行為、モラルの逸脱を大学教育機関で罷り通っている事はKファイルNO.173で述べた通りです。

この様な実態を承知しながら見て見ぬふりを決め込み、ガバナンスを大学法人に丸投げして今日まで参った関係省庁は、何の非も認めず責任の所在も明らかにせず、伝統的な不祥事、事件が起きる度に壊れた窓の補修作業をするに留める手法を此の度も行っているように思えてならないのは筆者だけなのでしょうか。

近年特に目に余るガバナンス違反行為を行う私大法人では、残念ながら「自浄能力」を失せている事はご承知の通りです。2021年に設置された「学校法人ガバナンス改革会議」の報告提言では、明快に現在の大学法人の理事長が評議委員会を骨抜きにし、業務執行機関の理事会の理事達を忖度で推薦、任命している実態を報告し、ここに楔を打ち込むために「私大法人の評議委員会は全員外部者が必要」と大胆な提言をされたと理解します。しかし、2022年の特別委員会の最終報告提言では、やんわりと本件を却下し本来の評議委員会の改善、改革には程遠い内容とされています。それらは、執行機関の理事長、理事会が評議員を選べる仕組みと権力を残している事は「抜け道」を斡旋して、大学法人の理事長、理事会を擁護している証でもあるという事のようです

筆者の私見

本報告書には、冒頭に「私立学校法と学校法人の独自性」挙げられています。

この独自性、即ち個々の個性を豊かに育てる事を意味されての「大義」とされているのだろうと推測させて頂きます。しかし、この独自性を私学で育ませるためには、大人達がガバナンスを捻じ曲げて、私利私欲に悪用する事からこの度は法人ガバナンスの改革が主たる目的ではなかったのでしょうか。即ち独自性を育てる為には、人間社会では規則と罰則が不可欠なのです。これらが明文化されていないので、いつまでも不正、不祥事、事件を繰り返しているのです。「話せばわかる」文化では、「悪事が蔓延る」ばかりである事が何故理解出来ないのでしょうか。本特別委員会の報告書には、この重要なポイントに疑念を感じるのは残念です。

この程の私大法人のガバナンス改革案(提言)の作成は、社会問題となっている本件の改善、改革を声高に国民、社会に真剣に取り組んでいますよ、と言ったパフォーマンスの様に思えてならないのです。その根拠は、既にKファイルNO.173で、そして今回のNO.177で述べさせて頂いています通り、3回もの新しい諮問委員会(見識者を集めての)を2019年より2022年3月末まで約4年の年月を費やしながら、改善、改革すべき重要事項に於いては、お茶を濁し「私大法人理事長、理事に抜け道」を提供して「手打ちを図る」手法は、相変わらずの文科省庁と申し上げなければなりません。やはり私大法人は、文科省庁にとっての甘い蜜(職安)でしかないのかと疑念を持たれる最終改正案のように思えてならないのは筆者だけでしょうか。この機会に因習を断ち切らなければ我が国の教育界、スポーツ界に「フェアーでクリーンな環境」は訪れないと思います。

本会改革は、日本の私大法人・教育機関の一大転換期でもありましたが、「大山 (たいざん) 鳴動 (めいどう) して 鼠 (ねずみ) 一匹( いっぴき)」の故事が当てはまる様では、これまた日本国の教育機関、省庁に「Justice(正義)&Fairness(公正)」の大義は、目障りのようにお見受け致しました。本気で国民・社会は、一体となって行動を共にして立ち上がらなければ、此の国の教育の現実と実態では子供達の健康と行く末が憂いてなりません。教育機関は、未来を託す若者に「正義と公正」を教育者、指導者、経営者自らに襟を正し模範とされねば、今問われている国家存亡の危機を将来どう切り抜けられるかをKファイル読者の皆様は、真摯に感じられているのではないでしょうか

注:NO.177には、2022年3月29日に公表されました学校法人制度改革特別委員会」の報告書を参考、引用させて頂きました事を明記させて頂きます。

文責:河田弘道

スポーツ・アドミニストレイター

スポーツ特使(Emissary of the Sports)

紹介:G File (長嶋茂雄と黒衣の参謀)文芸春秋社 著 武田頼政

   Kファイル、 KファイルNews Comment by Hiromichi Kawada

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