K’sファイルNO.56:大学競技スポーツ・アメリカンフットボールの出来事
無断転載禁止
PARTⅣ 緊急特別寄稿:日大vs関学大定期戦の運営、管理責任
1.アメフト事件の危機管理能力の欠落
①アメフト問題のフィールド対応の疑問
本件は、誰もが問題視しない事が非常に疑問に思います。
この度のアメフトの競技中の事故、事件に対する危機管理は、ゲーム中の審判クルー、学連、協会、にその能力が無かったという事です。それは、以下のような状況が証明していると考えられます。
Ⓐ本件の初動処理を怠った主審
5月6日の定期戦に於いて、ゲーム中に日大選手が関学大QBに対して重大な反則行為を犯した時、ゲーム統括管理責任者である審判クルーと主審は、当該選手の危険反則行為に対して躊躇なく一発退場処分に出来なかった時点で主催者にゲーム管理能力が無かった事を証明していると思われます。
この審判の判断は、第二、第三の同選手による反則行為を助長させた事は重大な問題であります。これらの行為をマスメデイアは、第一反則現象のみに目を向け、主審の見解をコメントしていないと思います。見過ごしているのかも知れません。反則行為時の動画を確認すると同審判クルーは、映像を正面から見て、反則行為を行った右側に位置し本行為を確認、イエローフラッグを投げ反則を告知、反則がインプレイ中での出来事でない事も確認済です。
アメフト審判には、競技の特性からゲームが安全且つフェアーに進行する為の特別な処置権限を与えられているのです。その審判が日大監督、コーチの顔色を伺い乍ら、判断をするようでは、まさにこのように本件の問題の傷口を大きくした根源が、此処に在ったと指摘して良いかも知れません。
本審判、主審のTPOの無さと決断力の無さは、そのまま主催者である関東学連、日本アメフト協会の主体性の欠如を意味するものです。
先ず、この度のゲーム主催者とその上部団体は、ゲームの運営、管理責任の所在を明確にし、本件の見通しが付き次第、人心一新を図る事は、教育機関のテイームを預かる組織、団体の責任の取り方であり、運営、管理者としてのけじめであると思われます。また、審判クルーへは、責務と使命の再確認の徹底を行う事と同時に資格認定交付の再審査が、今後の再発防止には不可欠であります。
Ⓑゲーム運営、管理に必要な鉄則
主催者は、問題発生後の処理、解決の為に必要な、「タイムテーブル」を自ら作成し公表する義務があります。此れが出来て居れば、全て主催者のタイムテーブルに沿ったマニュアル通り客観的、事務的な処理により結論が導けたのです。そして、主催者は、調査の結論及び日大側への罰則が決定、発表される事で本件は、一件落着したのです。
その後に日大側、当該選手個人から主催者への罰則に関する異議申し立てが、期限内に在った場合は、双方組織、団体、個人を問わず、当事者或は代理人が窓口になり、異議に対する確認の作業、回答が行われる事がスポーツ・アドミニストレーションのこのような問題に対する処理の鉄則なのです。
また被害者である関学大、該当選手からのアピールが、主催者に有った場合は、窓口が適切な対応をすればよいのです。結論として、主催者側は、被害者、加害者側からの異議申し立てに対して双方納得いく解決に至らなかった場合、納得行かなかった側は、司法の手を借りる事となると思います。
主催者側にこのような毅然とした危機管理マニュアルが無かったので、この度のようにマスメデイアの報道に追随する事態に引きずり込まれるのです。また、関東学連加盟校の監督達に日大とのゲームを拒否されたり、今後の問題に口を挟ませたりする事自体、本組織、団体には、権威も主体性も無い組織、団体とみなされると思います。
学生連盟は、「学生達の自治活動」が大前提となっている組織、団体です。
そこに社会人、大学関係者、等の大人が学生達の自治権を強奪した結果が今日の学連の実態です。その証として、この度の学連記者会見の場には、一人の学生も同席していませんでした。しかし、誰もこの不自然で矛盾した組織、団体に質問、意見が無かったことが大学競技スポーツの我が国の現状、実態なのです。学連の看板は、何れにしましても外された方が賢明でしょう。
2.本件に対するそれぞれの立ち位置
①突然興味を持ったTV.マスメデイアの不思議
危機管理の不備は、5月6日のゲーム中の事件発生後、上記関係者、組織、団体の誰一人として本件に対する問題処理のイニシアチブ(主導権)を取るリーダーが現れていない事、いなかった事です。
関学大が記者会見した後、TV、マスメデイアが本件のイニシアティブを取ってしまったことにより一層問題の視点、論点がぶれ、マスメデイアが望むニュースソースに従った方向に事の次第が展開して行っているのが誠に残念でなりません。我が国には、スポーツ・アドミニストレーションの概念すら持ち合わせていない事を本件において理解されたのではないでしょうか。
TV.マスメデイアは、本アメフト問題を材料にして日大の経営、運営、管理体制の中枢の理事長にまで矛先を向け、理事長降ろしに邁進しているかの様相に見受けられるのは筆者だけでしょうか。主催者に主導権が欠落している事を良いことに、マスメデイアは、本来の報道任務を超えた特定大学の人事に及ぶ内政にまで干渉し、影響力を及ぼそうとすることは、果たして如何なものなのでしょうか。此れも本アメフト問題に於ける初動に於いて、主催者である関東学連とその上部団体の危機管理の不備がこのように問題を一層複雑化してしまったと思います。
②私立大学と文科省の関係
現在マスメデイアで報道されている問題は、日大の内政、人事問題へとステージが移されている様です。しかし、この問題とアメフト問題は、混同すべき問題では在りません。何故ならば、日大の内政、人事問題は、大学の許認可権を持った文科省と日本大学の問題であると筆者は理解します。
既にK’sファイルでは、言及しましたが、文科省は、私立大学の設置、学部の設置に対する許認可権、私学助成金、補助金と公金の振り分け権を持ついわば利権を握り、役人を各大学に退職後天下らせる、我が国の巨大な利権屋さんの集団である事を忘れてなりません。大学教育機関と文科省は、持ちつ持たれつの関係を伝統的に維持して来ているのです。そのような関係から、この度の大学競技スポーツの問題に於いても能動的な行動が執れない構造なのです。
文科省は、私学大学の経営、運営、管理の問題を大学法人に投げつけ、野放しにして来た付けが山積しています。このような環境から、文教族(政治家、役人の利権集団)と揶揄される俗語が古い昔から言い伝えられているのだと思われます。読者の皆様には、今社会で問題視されているような件は日大だけの問題ではないことを是非知って頂きたい次第です。本件を対岸の火事と横目で見ている他大学の経営者は、ホッと胸をなで下ろしている事でしょうか。
3.競技スポーツの試合に於ける暴力の取り扱い
①過失と故意の区別
スポーツは、楽しみを求めたり、勝敗を競ったり、またそれを仕事として行われる身体活動(Physical Activity)の総称です。競技スポーツの基点は、フェアネス(Fairness)にあり同じ環境とルールの下で行われることにより発展してきたのです。
競技スポーツは、身体運動(フィジカルコンタクトを含む)が伴うために何がしかの身体に及ぼす危険と同居しているためにリスクを伴う事で、他のリクレーションスポーツ、レジャースポーツ及び、健康スポーツ、観戦スポーツ、文化的な活動とは異なるのです。
このような事からスポーツ事故の法的な責任は、スポーツの世界では「過失」を前提としているのです。しかし、競技スポーツの試合に於ける「故意」も事実存在する事も確かです。この度のアメフト事件は、正真正銘の「故意」であったのです。
過失とは、注意義務を怠る事を意味します。あるいは結果の回避が可能だったにもかかわらず、回避するための行為を怠ったことを指します。
故意とは、一般的にはある行為が意図的なものであることを指します。刑法においては、「罪を犯す意思」(刑法38条1項)を指します。故意犯は、原則的に処罰されるのに対して、過失犯は、特に過失犯の規定がないかぎり処罰されないことから、故意と過失の区別は刑法上の重要な問題の一つでもあります。
②ゲーム中の乱闘、暴力行為に警察・司法が介入しない理由
スポーツ・アドミニストレーションに於けるスポーツ法では、スポーツは社会的に正当な行為であり、「許された危険」「危険の引受」「被害者の承諾」「社会的相当行為」なので違法性が阻却(そきゃく)される、と解釈されるのです。
スポーツ事故は、外形的には過失傷害罪で違法にみえるのですが、スポーツゲーム中にスポーツに内在する危険が顕在化し偶然生じた事故だから違法ではない、というのが違法性阻却事由とされています。
ようするに、アメフト、サッカーや野球、バスケなどのスポーツには歴史的なスポーツのルールがあり、その中に国家の司法機関たる裁判所がいちいち介入して裁判にするまでもなく、スポーツ界の中で自治的に解決すればよい出来事という解釈なのです。此の事は、国内外での競技スポーツ界に於いての「不文律=暗黙の了解」とされている業界の常識でもあるのです。例えば、プロ野球界、サッカー界、アメフト界、バスケットボール界、等での乱闘がその1例です。
しかし、一旦競技ゲーム以外で暴力、事件、事故、等々などの競技スポーツのルールを超えた問題は、当然に民事・刑事の法的な問題として裁かれます。
時事の動向
①6月1日:日大第三者委員会発足―7名の日大側選考弁護士による、日大側の本件に関しての調査委員会。調査結果は、7月末をメドに発表予定。
②6月10日:被害者側QB父親会見-日大第三者委員会弁護士2名にヒアリングを受けた事、内容に付いて発表。
文責:河田弘道
スポーツ・アドミニストレイター
スポーツ特使(Emissary of the Sport)
お知らせ:次回は、本シリーズの最終回として「日本の大学競技スポーツの動向」「NCAAフットボール1部の強豪校の現状と現実」に付いて、筆者の体験を交えてお伝えする予定です。別世界の話では、ありませんが、今日のNCAAの確立に約100年の年月を要していますことを記憶に留めて於いて下さい。