K’sファイルNO.102:米国大学競技スポーツと筆者の基軸

KsファイルNO.102:米国大学競技スポーツと筆者の基軸

無断転載禁止           注:K'sファイルは、毎週木曜日掲載予定

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後編:契約社会に於ける罰の重み

1.NCAAルール違反者への厳正な対処

①加盟同意の根拠とは

NCAA加盟校は、本NCAAルールブック(Rule Book)を遵守する事を宣言して加盟申請を行い厳重な加盟審査を経て加盟許認可を受けています。よって、NCAA規則・罰則、裁定には、絶対的に従う義務があるのです。加盟組織・団体及びその関係者、個人は、組織の一員としてルールブックを遵守する事に同意しているのです。裁定に異議を持った個人は、個々の権利で司法を活用する事が認められています。また、勿論学生選手は、ルール内であれば個人の自由は尊重され守られます。

日本の一般社団法人 大学スポーツ協会(名称:Japan Association for University Athletics and Sport、略称:UNIVAS)は、2019年3月に設立発表されました。しかし、政府機関のスポーツ庁は、自らの音頭に寄り設立加盟申請をさせ、申請をした大学の数を強調し、国民、社会、大学関係者には、申請した大学は「加盟同意」したかのような印象を招かせる手法は如何なものでしょうか。

設立された協会には、組織・団体としての大義、趣旨、目的の骨子が抽象的な表現のみで、各大学が加盟同意に必要なルール(規則・罰則)、基準も皆無の状態である事です。また、加盟申請に際して、協会は、その大学が加盟基準を満たした大学であるか否かの厳正な審査も無い状態です。

現在の状況は、本連盟を設立した場合どれ程の大学が興味を持つかの予備調査段階との理解と認識が妥当ではないでしょうか。

即ち、組織・団体として運営、管理する基盤のない、云わば「この指とまれ」方式では大学競技スポーツの未来が透けて見えてくるように思えてならないのは筆者だけでしょうか。日本の大学競技スポーツを統括する団体が必要であるという事に気付かれたことに対しては大いに賛同致す次第です

ルールは、学生選手、コーチングスタッフ、監督のみに適用されるものではありません。違反者の対象は、大学競技スポーツに関与する全ての関係者を対象とするので、ルールブックは膨大でバイブルと申し上げても過言でありません。NCAAに於ける対象者は、大学競技部門を統括管理するアスレテイック・デパートメント(Athletic DepartmentNCAA加盟各大学内で運営、管理する専門部門・部署の総称名)の運営・管理者、コーチングスタッフ、監督、他各専門部門、部署をあずかる全スタッフに及び、全員が例外なくNCAAの特別調査委員会(Special Investigation Committee)によりインベストゲーション(Special Investigation:特別調査、査察)を受ける義務を有するのです

違反者、違反組織・団体(大学)に対しては、NCAA裁判所に於いて短期間で結審されペナルテイーが決定する仕組みになっています。勿論、違反対象側には反論の機会が与えられます。NCAAルールブックは、違反行為者に対しては「正義と公正」の旗の下、非情を持ってフェアーな判決をする事が伝統的な約束事なのです。日本で今日よく聞かれている第三者委員会は、このような強い権限を有した一つの独立した機関で在って欲しいと願う次第です

 

②日本の大学競技スポーツに於ける違反行為への対処問題

NCAAは、これぞ法治国家たる権威の象徴と言えるのではないでしょうか。

今日の我が国の大学競技スポーツ、等に於ける「第三者委員会」のようなグレーな方法では、処理、解決に至らないのです。今日学内外の諸般の不祥事、等に於いては、第三者委員会という名の委員会を設置して、審査を依頼する事が頻繁になりました。しかし、この第三者委員会は、何の権限も持たない、いわば関係者により指名、招集された集団で、完全な第三者と呼ぶには余りにも無理があり過ぎると思いますこれでは、「正義と公平・公正」の下に裁く事は出来ません。しかし、依頼する側には、都合が良いのです

三者委員会なる手法は、あくまでもグレーゾーンでの仲裁会合であり、日本の伝統的な談合文化の新種な談合形態を生み出していると言えます。これは、構成メンバーは誰も法的にオーソライズされたわけではなく組織、団体側の責任者が有給で雇用し、調査に当たっては任意に関係者を呼んで事情聴取した後、委員達の総意として雇用主に対して報告書をまとめ提出するという、言わば客観性や責任の所在の無い任意の報告者による報告書に過ぎないと思われます

また、雇用者は、委員の対象を弁護士有資格者としているのは権威主義的でこれまた片手落ち、第三者とは弁護士以外に認められないのか、有資格者がどれ程スポーツに精通、特化した人物か否かの基準も持ち合わせていない次第です。

此のことから生じる問題は、既に竹田恒和氏(JOC会長)の20東京五輪招致委員会の収賄疑惑に関して、JOC内に於ける第三者委員会の報告では「問題なし」と公表されているが、フランス検察当局は「問題あり」と疑惑を肯定しました。これにより同氏は、IOCJOC、⒛東京五輪組織委員会の役職を退任せざるを得なくなった事態に至った事で、お分かり頂けるのではないかと思います。これが第三者委員会の実体であり、現実の姿なのです。

異議を唱える個人が、堂々と司法に訴える勇気を持てる社会で在って欲しいと願う次第です。きっと、近い将来我が国に於いても第三者委員会などでの判断を仰いで組織・団体、機関のグレーな裁定を受け入れる事無く、自身が正しいと信念を持つなら司法の場で明らかにする事により、公正・公平な判断と裁定が受けられるようになる事を切に願う次第です。

しかし、この司法の判断に疑念が及ぶ事が無いように我々国民、社会は、「個々の自由とフェアネス」を守る為にも立ち上がらなければならない時か来るかもしれません。日本国民、社会には、伝統的に諸般の問題を弁護士、裁判、即ち司法で処理する事を好まない慣習、習慣が根強くある事からこのようなグレーな第三者委員会なる手法、手段が都合がよいと活用しているのかも知れません。しかし、この委員会では、正義と公正を期待することは難しいのです

その為にもスポーツ界は、経営、運営、指導管理者並びにその組織、団体に置ける規則・罰則(ルール)をより現実的で明文化する事が重要なのです。全ての関係者は、ルールは競技者、競技だけに特化するものでなく、関係者全てにルールがあり適用される事を指導し、理解と認識を共有する事が重要だと思います。

③ルールは人々の共存共栄を守る基本原則

このようなNCAAルールを日本の大学競技スポーツに当てはめますと選手も大学も全く競技が出来ない大学が多数出て来ると断言できます。勿論、リーグ戦自体も崩壊してしまうと思います。大学競技スポーツに参加する為のルールがリスペクトされず、ないがしろにされている事に慣れてしまって居るので、ルールに沿った管理は、学生選手のみならず関係者一同非常に息苦しく困難を極める事と思われます。

例えば、箱根駅伝やその他の大会で大学名の宣伝や、勝利のために外国人選手や有力な日本人選手を金銭で勧誘する行為。また、入学前に卒業、学位授与を確約したり、Ksファイルでかつてご紹介したメダリスト選手の様に、4年間同学年の学生達すら一度しか見たことが無いという学生に卒業証書、学位を授与したり、毎月数十万円のキャッシュを渡す行為。このような事を行っていても、

マスメデイアさえも、誰もがアンフェアーだとかルール違反だとかとアピールできない、しない無秩序状態が日本の大学競技スポーツの現実です。米国の大学でこのような所業が行われるとどうなるのでしょうか。

米国の場合は、殆どが同じ大学の競技選手、教職員からNCAAへの内部告発、或は対戦相手、他校からの告発、等が行われます。

NCAAは、通告、告発を基に査察班が大学、学生選手に対して直接調査を行い、NCAAの裁判で裁かれます。これにより、NCAAは、調査開始から約2週間で査察用件の結果、経過を先ず公表するのが通例です。これらも、彼らは、基本的に「JusticeFairness」をリスペクトしている証の一つでもあると理解していますそのペナルテイーの重罪例としては、違反大学には4年間以上NCAAに登録している全競技スポーツの出場停止処分が科され、大学の経営責任者、指導者、管理者は解雇、学生選手は永久追放となる可能性が高いです。

筆者が運営、管理に関わっていました時に、例えばこんなことがありましたA大学は、バスケットボールテイームのリクルート活動に於いて、優秀な高校選手を大学キャンパス訪問の為に航空券を発券して招待したのでした(NCAAルールのリクルート規定により)。

しかし、同選手が空港到着後、到着出口で待ちかまえていたのは同大学の後援会が準備したリムジンで車両にはプレイボーイクラブのバニーガールが同乗、高校選手と一緒にホテルに直行した次第です。その後同選手は、キャンパス訪問規定を十分に活用せず、ルール規定の滞在可能期間の殆どをホテルで過ごし、そのまま空港にリムジンで送られて帰宅したのでした。翌週、同高校生はB大キャンパス訪問時に同選手と大学関係者との面談を行ったところ、同選手はB大学に対してA大学で受けた「おもてなし」と異なる事への不満をB大学関係者にぶちまけた次第です。そこで、B大学関係者は、同選手よりA大学の同選手へのリクルート活動違反の言質を取り、翌週NCAA調査委員会に公式に告発、報告を行いました。

当時、本件は、NCAA裁判所での判決が約半年かかる程の出来事だったと記憶しております。ペナルテイーは、大学がNCAAに登録している全競技スポーツ種目が確か2年間出場停止処分となり、大学管理者、運営責任者、リクルート担当者、等を含めた関係者には、解雇処分が大学内で行われ、高校生に対してはNCAAへの競技参加資格が特定の期間失効したと記憶しております。

A大学の全競技スポーツがペナルテイー解除後に、プログラムの再建と復活するまでには約10年以上の年月を要しました。このNCAAルールが現在の日本の大学競技スポーツに適用されると、殆どの大学が競技出場停止、経営者、管理者、関係者は解雇、学生選手は、永久追放、或は停学、退学処分となると思います。

④カンファレンスとリーグの違い

NCAA公認競技スポーツを持つ大学は、指定された各カンファレンス(Conference)に所属する義務があり、その全カンファレンスを統括運営、管理している組織・団体がNCAAという名称で呼ばれています

カンファレンスとは、日本のリーグと本質に於いて異なるコンセプトの下に運営、管理されています。本カンファレンスは、基本的にNCAAの一部校(約380校)を全米約35の地域に区分しています。フェアネスの原理原則から区分は複数年に一度、統廃合が繰り返されており、入れ替えが盛んであるのも事実です。

本カンファレンスは、歴史的にも1カンファレンスが数十校になっている場合もあり、そのようなカンファレンスでは、さらに複数のブロックに分割されます。また、NCAAは、「正義と公正・公平」を基本原則にしている事から、カンファレンス内に於いても不都合が起きる度に統廃合が行われます。

日本の様に各競技スポーツ別に異なるリーグでリーグ名も異なる様な事はあり得ません。日本の大学リーグ制度は、大学競技スポーツが発足する当時から全大学を統括運営・管理する組織・団体が存在しなかったので、大学関係者が自らの大学と同レベルの近隣の大学に声を掛け寄り合って、個々の競技種目ごとにリーグと言う名の下に対抗戦が始まった歴史と経緯があります。

例えば、東京六大学野球リーグは、最初の構想並びに加盟予定校は、中央大学早稲田大学、慶応大学、立教大学明治大学、法政大学で構成され、書類提出手続きに入ったようです。しかし、締め切り期日までに中央大学は、書類の提出を怠った事により、対象外とされ加盟5大学の総意で東京大学が選ばれたと、筆者が中央大学勤務時に関係者から説明された記憶が蘇ります。何故、東京大学野球部が加盟5校により選ばれたかは、読者の皆さんのご想像にお任せ致します。

このようなリーグに於ける歴史的、構造的な問題から各競技種目により異なる格差が顕著になり、各種目のリーグの組織・団体(各種目別の学生連盟、連合)は、各々の利権集団と化してしまいました。そのことは、大学競技スポーツとしてのトータルマネージメント、コンセンサスが困難となってしまって居る現状がその証です。

例として、大学スポーツ協会(UNIVAS)へのこの度の加盟申請には、東京六大学野球連盟関東学生陸上競技連盟(任意団体、箱根駅伝主催、読売新聞社共催)等は、加盟申請を拒否しているのも事実です。

 

2.米大学スポーツアドミニストレーションモデル例 

大学内の組織・運営・管理体制:

大学総長(学長)の直轄組織:

主に副学長(副総長)が統括管理責任者として位置付けられている。

1.大学対抗競技委員会(略:IACIntercollegiate Athletic Committee

 任務と責任(Charge & Responsibilities)

 使命(Mission

 ①大学として学生として学問を修める手本として全学を代表する。

 ②本組織の財政、計画、方針、等に関して本組織のデイレクター、評議員、運営・管理

     に対してアドバイスを与える。

 ③誠実な学生選手を保護、保証し、学業優秀な学生選手を保護し機会を与え推奨する。

 ④学問と競技活動と対抗競技戦の大変さを大学、社会に理解を得られるよう働きかけ

     る。

2.小委員会(Subcommittee

1名:IACの議長

1名:教職員(one faculty member

1名:学生代表(one student)

1名:教職員で競技代表(the faculty athletic representative

3.実行委員会(Executive committee)

実行委員会は、IACの議長により招集される。

実行委員会は、クローズ(非公開)によって行われる。

実行委員会は、アスレテイックデイレクターの要望に基づいて討議、進行されるものである。等々。

4.アスレテイック デパートメント(Department of Athletics

本部門、部署は、当大学のNCAAから許可を受けた大学競技スポーツを統括経営、運営、管理する総称名である。本部署は、1名の統括責任者(Athletic Director)が居る。ADは、プロ球団のGM業務内容より遥かに重労働で在ります。例:規模の大きな大学では、本部門、部署に約300名を超える雇用者を抱えています。

読者の皆様のご要望が在りましたら大学競技スポーツのビジネスアドミニストレイションに付きまして、改めて機会を見て述べさせて頂ければ幸いです。

読者の皆様には、これからの日本の大学競技スポーツ界、スポーツマスメデイア界、スポーツ組織・団体、大学競技スポーツに関して、少しでも専門知識を補強して頂き、今後起きるであろう、より一層複雑怪奇な出来事に対して、理解と適切な判断をされることを切に願う次第です。

 文責者 河田弘道

スポーツ・アドミニストレーター

スポーツ特使(Emissary of the SPORT

お知らせ:この度の前編、中編、後編は、如何でしたでしょうか。読者の皆様には、新しい知識を蓄えられますと同時に、スポーツマスメデイア、関係機関が流す理解し辛い情報、内容を解読される一助にして頂ければ幸いと存じます。

次回は、筆者のスポーツ・アドミニストレイションの講義授業に付帯する河田ゼミの実践活動を覗いてみませんか。この様なアクテイブ・ラーニング形式のゼミは、日本で初めてではないかと思います。これらは、個々の学生達の潜在能力を引き出すコーチングの一種です。お楽しみに