NO.20 河田弘道のプロ野球の視点:どうした東京読売巨人軍(最終回)無断転載禁止

NO.20 河田弘道プロ野球の視点:どうした東京読売巨人軍(最終回)無断転載禁止

 

著者からのお知らせ:

 本課題とテーマは、NO.20で最終回とさせて頂きます。Ⅷは、長文となっていますので、テーマを1.巨人軍に於ける補強戦略の必要性~2.巨人の補強に伴う弊害~3.東京読売巨人軍の復活は、新GMの双肩にあり~、と致しました。各テーマを3週に分けて、ご笑読して下されば幸甚です。感謝    NO.21は、9月中旬予定。

 

Ⅷ.東京読売巨人軍から東京読売GIANTSへ、

1.巨人軍に於ける補強戦略の必要性~

 補強とは:

 補強とは、「足りない所や弱い所を補ったり強くしたりすること」広辞苑補強には、補強する側の必要性と仕方により種々異なった理解と解釈が成り立つのも確かです。補強する側は、球団の現有戦力の分析の結果を先ず、

①編成部門のコンセンサスを取りまとめ、

②監督から現場のコンセンサスを取りまとめ、

③編成部長と監督双方のコンセンサスを取りまとめ、

④編成部長よりGMに報告する。

GMは、最終判断を行い、最高経営者の了解を得て、決断、実行する。

このようなプロセスは、通常のベースボール・アドミニストレーションです。

先ず此処で、補強には、幾つかの異なる種類と方法がある事を理解して下さい。それらは、ドラフト(新人選手選択会議)、FAFree Agent,自由契約選手)、トレード移籍(球団間の選手売買)、外国人選手補強です。読者の皆さんは、この中でも特にFA選手、外国人選手を補強というイメージで持たれているのではないでしょうか。

 ドラフトとFA制度の関係:

 MLBに於いてのドラフト制度は、競争の原理と協力の原理を組織・団体の根幹としています。リーグの覇権をめぐっての競争とリーグの繁栄の為の協力(共存共栄の意味)は、全加盟球団(30球団)が共通した「理念」として共有しています。

 ドラフト制度は、このような理念を基にテイーム間の戦力均衡を図り、どのテイームも優勝が狙える力を維持する事により、集客を向上させ、戦力が極端に弱体したテイームを出さない事を目的とした制度なのです。

 MLBに於いては、完全ウエーバー制度を採用している為に、前年度の勝率の最下位のテイームから順番にドラフト指名を行います。

 NPB(日本プロ野球機構)に於いては、完全ウエーバー制度を採用していません。ドラフト一巡目から複数球団が同一選手を指名した場合は、ご存じのような抽選で決めています。本BLOGでは、スペースの関係で詳しくお伝えできないのが残念です。

  FA制度は、上記ドラフト制度により選手の自由を束縛、拘束する事から選手側と雇用側の間で生まれた妥協の産物です。

 MLBでドラフトされた選手は、5年間のメジャーリーグ契約を満たすと、初めて自由契約選手(FA選手)と認められ、選手が望む球団と自由に交渉が出来る権利を得ます。

 NPB(日本プロ野球機構)でドラフトされた選手は、現在7年間1軍での在籍を認められると、選手が望む球団と自由に交渉が出来る権利を手にします。以上基本的なドラフト制度とFA制度の知識を参考までに付記しました。

 球団に於ける補強の必要性:

 補強は、球団の戦力維持、強化の中核をなす編成部門の最重要な課題と責務の一つです。しかし、補強をするに当たっては、現戦力の分析と球団が目標とするテイーム強化戦略に沿ったものでなければ本来の意味を成しません。また、補強には、大きく二つの目的があります。一つは、現テイームが即戦力の必要性がある場合、二つ目は、選手層を厚くする事を目的とする場合があります。日本プロ野球界では、殆どが一つ目の即戦力が目的の場合が多いと思われます。

 本球団は、伝統的に相手球団の主力選手(四番打者、エース級投手、メデイア価値の高い選手、等)を獲得するケースが多いのでマスメデイアに大きく取り上げられる事が多いのも事実です。

  これは、球団側だけでなく、選手側にも巨人に行きたいという強い意思が働いているためです。その理由は、巨人が獲得したいという意思がある場合、FA移籍する事により多くの収入が見込まれる事、人気球団に居て活躍する事による商品価値の上昇と選手生活を終えた後の事に対するメリットなどが主な理由の様です。

 巨人軍は、常に即戦力となる人気と実績を兼ね備えた選手を欲し、即勝利する事を最優先している事は既にご承知の通りです。また、同時にこのようなコンセプトは、即効性のある補強以外に結果として、相手球団の戦力低下にも繋がることもあります。このようにプロの世界では、補強の目的が即戦力と選手層の厚さだけでなく、相手のテイーム戦力低下を狙った戦略もあります。

 日本のFAを宣言する選手の殆どは、宣言する前に移籍希望先から担保を得ている場合が多いと思われます。よって、選手は、移籍宣言をギリギリまで伸ばす理由が此処にあるのです。選手は、移籍先のメドが立たなければ宣言する意味も無く、リスクが高まるからです。

 

 2.巨人の補強に伴う弊害~

 補強で若手、中堅選手の夢を奪う:

 巨人軍の補強には、常に大きなリスクがともないます。特にSFA選手を補強する場合は、相手球団への金銭と人的補償があり、選手には、高額な契約金と年俸、インセンテイブボーナス、長期保証、その他の保証を約束しなければなりません。しかし、此処で最大のリスクは、球団スカウトに寄る情報、資料が正確であるかどうかです。

 本球団のSFA選手が期待通りに即活躍しないケースが目立つのは、何故か。FA後、翌シーズンに怪我をするのは何故か。その問題の多くは、個人差はありますが、このスカウテイング力の問題と、もう一つは、球団側(経営者を含む)の欲しいSFA選手に対してのチエック機能が甘くなり、相手選手側の言いなりの約束事をしてしまう事、移籍後、環境に順応できないケースが多いためです。

  例えば私事ですが、当時このような事にも直面しました。この球団テイームには、他球団からの現役4番をFAで獲得していたにも関わらず、また翌年他球団の4番をFAで確保してしまっていたのです。そしてまたも96年に他球団の4番の獲得指示が出されたのです。これら全ての選手は、走れない一塁手ばかりでした。よって、球団が欲しくて取るのですから、当然その選手へのチェック機能は甘く、後に禍根を残す事になるのです。このような状況下での現場に於ける運営、管理は、困難を極める事を読者の皆さんも理解して戴けるのでないでしょうか。

 その時私は、幹部会議に於いて監督補佐の立場として、監督に素朴な質問を致したのです。「監督、3人もダッグアウトに座らせてどうするつもりですか、これでは、将来の四番として既にドラ1で獲得し、ファームに居る選手は潰れますよ」と球団幹部会で訊ねた事を思い出します。

  このような補強に走った場合は、戦力補強した以上の負の遺産を背負い込む事になるのです。競技スポーツに於けるコンセプトは、最終的に勝利する事が主たる目的です。その為には、戦力を強化する事は重要な戦略の一つです。しかし、そこには、計画的な戦略補強が重要であり、相手テイームの戦力低下が目的の補強は、やがて自軍の内部崩壊を招く火薬庫と化すことを忘れてなりません。

  補強選手組がテイームの主力となった場合は、テイームマネージメントに於ける問題が日々山積され困難を極めます。特にテイーム生え抜き組対、補強組の構図は、水面下で現実のものとなります。このような現実も私は、身をもって体験した次第です。

 此のことは、長いシーズンを戦い抜くに当たって、特に一軍半、二軍の若手、中堅の育成、指導の選手達に多大なマイナス要因を与える事になります。勿論、自軍で育った選手を中心としたテイーム作りの球団は、テイームに対するファンの熱狂的視線を肌で感じます。しかし、補強中心路線を推進する球団は、何か注目がそのシーズンのFA移籍選手に集まり、テイームの一体感を感じられないのです。読者の皆さんは、如何でしょうか。しかし、巨人ファンの方々は、表に出して感情を表現しない独特な気質があるようです。

 若手中堅が育たない要因:

 FA補強の場合の弊害は、若駒のチャンスを奪う物理的な問題と、モチベーションを削ぐ選手達への精神的なダメージが現場に於いて計り知れないです。特に球団側がFA選手に強い興味を持って、獲得に動いた場合は、選手側が主で売り手市場となり、球団が従となりがちなので、余計な約束事をさせられたり、したりするのです。そのような事情の選手達を多く抱える事で、テイーム内のマネージメントにも、見えない約束事がボデイーブロー(負の遺産)となって身動きが取れない状態へ引きずり込まれるのです。

 例えば、補強選手側に、常時一軍枠28名から外さないという約束事をさせられると(外国人選手からもよくあるリクエストの一つ)、その選手が不調であっても貴重な1枠が既に奪われて、若駒にチャンスが与えられなくなるのです。球団側は、補強をする前に戦力分析、テイーム編成のコンセプトを再確認し、強い信念と意思を持って、ベースボール・アドミニストレーションを遂行して欲しいと願います。

 この補強判断と決断は、一軍28名枠を目標に日々努力している二軍の42名の選手達の未来と生活を脅かします。球団の補強体制が、今後も現在のような方向に進むのであれば、二軍の資質の高い選手達は、他球団で活躍されない為のプールにしかすぎず、選手達の夢も希望も無くして、二軍選手に成り切ってしまいます。二軍の選手には、他球団に行けば1軍28名枠に入れる選手達が沢山いるのも事実です。

 

 3.東京読売巨人軍の復活は、新GMの双肩にあり~

 一貫したベースボール・アドミニストレーションの必要性:

 このような環境と状況下で「若手を育てる」という概念は、唯のお題目で成果を期待できるものではありません。本球団は、指導者に対するコーチング、テイーチングの本質的な問題を論ずる前に、球団の補強に関するコンセプトに先ず変革が必要かと思います。読者の皆さんのご意見を伺いたいです。

 指導に対する結論として、巨人軍には、一貫した独自の指導マニュアル、指導システムが必要です。特に監督選考は、歴代のテイームの四番バッター、エース投手という伝統的な基準があるのが特徴です。このような発想から、東京読売巨人軍の監督擁立は、選手としての実績と人気を最優先する事でマネージメント能力は問われないのです。この発想は、本質的な問題の改善、改革が遅れてしまった大きな要因の一つのように思えてなりません。

  このようなコンセプトから、現場の個々の指導者達は、監督にイエスマンを装い、「世渡り術」を先ず身に付け、コーチ、指導者としての競争力が低下してしまっていることを運営、管理者が気付かないか、気付いている管理者が居ても何もできないので知らぬ顔をしているのかも知れません。監督に現場での統括管理能力が無ければ、テイームも選手も壊れてしまいます。

 今シーズン前期に解任されたGMは、この球団に必要な指導者が少ない事に気付かれたのかもしれません。しかし、本体の一軍が機能しなくなってしまい、本球団の伝統的な体質に、志半ばして押し潰されてしまったのではと推察致します。

  近年の東京読売巨人軍、最高経営者は、1993年、12月の最高経営者会議に於いて、一大方向転換をされたと考えられます。それは、V9と称されて参った川上哲治氏率いる東京読売巨人軍体制から長嶋茂雄氏率いる東京読売ジャイアンツへの一大移行プロゼクトであったと強く記憶に残っています。このプロゼクトの脚本を書かせて頂きましたのが、僭越ながら小生でありました。

  この長嶋ジャイアンツは、94年のメイクミラクル、96年のメイクドラマを完結後、最高経営者の政治的判断で本プロゼクトが解体され、プロゼクトの改革のイグニッションキー(自動車を始動する時のエンジン点火スイッチを指す)を失ったのだと思います。それ以後の球団の補強コンセプト(ドラフトを含む)は、育てるのでなく育った商品を買ってくるという手法を以前にも増して強力に推進せざるを、得なくなったのかも知れません。

 そこには、育成、指導のシステムもコンセプトも必要としない、本来の伝統的な問題処理、解決手法に委ねている様です。豊富な戦力を有しますと、そのような球団は、選手の力で10年に1,2度は勝利を味わう事が確率的にも可能なのです。形式的には、長嶋ジャイアンツを継承しながら、実質は、古き良き時代の体質に戻ってしまった感が否めないと感じているのは、私だけでしょうか。

  今此処で一大ギアのシフトチェンジを致さなければ、「本球団は、ステークホールダー(投資者)でありますジャイアンツファンの愛に溺れ、変革という努力を怠れば、気付いた時には既にプロ野球界の歴史が変わっていた」となるような気がしてなりません。現在は、まさにこの状況が進行中であります。

 GMへの提言:

 もしも、新GMが隣の芝生が美しく観え、隣の芝の運営、管理、育成方法をコピーしようと安易な考えを持たれて居たら、このGMには、期待できないかもしれません。

 既に述べて参りましたが、本球団には、特殊な事情と歴史があります。新GMには、今迄と異なる本球団に合致した新しいオリジナルなベースボール・アドミニストレイターでなければ成果と結果を期待できないかも知れないです。

 その為には、球団経営者は、新GMに創造力と実践力のある強いアシスタントを付けられて、補佐して挙げて頂きたく願う次第です。何故ならば、本球団は、伝統的な会社、企業の組織体質から内外に敵を有している関係から、新GM一人では、何ともなりません。先ずは、勝利する為にも強い信念とぶれない一貫した強い意思と意識が不可欠です。また、新GMは、自身判らない事は信頼できる、リスペクトできる方に訊ねる事です。古人曰く、「聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥」と。

  この度は、「東京読売巨人軍の若手選手が何故育てられないのか」を課題とテーマに、Ⅰ~Ⅷ回に分けて広範囲に述べさせていただきました。如何でしたでしょうか。

 読者の方々からは、「本BLOGは、日本社会、会社、企業組織の縮図への警鐘、提言として、捉えることができました」との身に余る書評、読後感を頂き恐悦至極に存じます。私は、お世話になりました東京読売巨人軍に再び栄光が蘇る事を心より願い、老婆心ながら提案、提言をさせて頂き、他意はありませんことを申し添えます。

  本球団の重大なコーチングの問題に付きましては、読者の皆さんのご要望があれば機会を見て掲載致します。今回を持ちまして、「どうした東京読売巨人軍」の課題、及びテーマは、一旦終了させて頂きます。近い将来、本提言が東京読売巨人軍から真の東京読売ジャイアンツとして生まれ変わる為の一助となりますことを心より祈念致しております。

                      文責:河田弘道

                      Sportsアドミニストレーター

 

*次回NO.21は、9月中旬からスタートする予定です。

 お知らせ:河田弘道トーク・ライブ開催、106日金曜日、1830分開場。1900分スタート。会場:日比谷コンベンション大ホール。席数が限定されます。企画マネージメント会社からの告知は、9月7日を予定致しております。もうしばらくお待ちください。