K'sファイルNO.47:特別寄稿、レスリング協会の謝罪会見に思う~無断転載禁止

K'sファイルNO.47:特別寄稿、レスリング協会の謝罪会見に思う~

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  注NO.47は、予定を変更して特別寄稿とさせて頂きます。

 特別寄稿、レスリング協会の謝罪会見に思う~

 Ⅰ.筆者の視点、

この度の騒動は、伊調馨選手と栄和人強化本部長との間でパワハラがあったとする、第三者から内閣府に対する告発状に端を発した事件出来事でした。

何故第三者代理人弁護士)は、内閣府に告発状を出したのか。一般の読者は、不思議に思われた事でしょう。

また、代理人弁護士は、誰から依頼を受けたのか、その主を明確にしなかったことは大変残念でした。告発を決断するのであれば、事が競技スポーツに関連した問題なのでスポーツマンとして堂々と名乗り出て欲しかったです。後からマスメデイアを通してぞろぞろと出てくるのは、本件の趣旨、目的からして問題の性質や重大さ、特に選手生命、指導者生命がかかっている事のみならず、多くの関連、関係した若い選手達も何らかの影響と心の傷を負うことからも実名で告発する事が望ましかったと筆者は感じます。読者の皆さんは、如何でしたか。

 通常でありますと本競技種目の選手、指導者を登録し統括運営、管理をしている公益法人日本レスリング協会(略:日レス協会)」に申し出るのが筋です。それを行わず、あえて内閣府に提出した理由は、日レス協会は公益法人であり、その許認可権を有するのが内閣府であると判断されたのかも知れません。現在の内閣府では、あまり期待できないと思われます。或は、問題の協会内部を十分に熟知していて、協会に提出する事により、本告発状が内部派閥により握りつぶされる可能性を想定されたのかも知れません。また、協会内部の利害、利権に大変興味をお持ちの重鎮が別の権力を利用してシナリオを描きマッチポンプとして誘導しているのかも知れません。

 しかし、一般的には、先ず日レス協会に告発状を提出すべきです。そして、そのコピーを内閣府に提出して於くのが一般社会常識ではないでしょうか。何故代理人は、正攻法を依頼主に指導されなかったのか。先日の日レス協会の謝罪会見では、何か誠実とは反対な様子が透けて見えたのは筆者だけだったのでしょうか。これが日本独特のスポーツ競技組織の利害、利権ファーストの最たる例のように感じたのも、筆者だけでしょうか。また、日レス協会の会見は、明快なファクトが欠落し、第三者委員会のメンバーも選考方法の開示も無く、何の根拠をもって本第三者委員会が正当と言えるのでしょうか。此れも密室の選考です。

 Ⅱ.問題の本質、

本件の問題をスポーツ・アドミニストレイターの視点で指摘させて頂きますと、押さえるポイントは非常に単純な事なのです。

1人の女子レスリング選手は、五輪で四連覇した金メダリスト、国民栄誉賞受賞者、全日本チャンピオンである事です。この選手を指導して来た指導者は、栄和人コーチ(至学館大学監督)であり、伊調選手は、同大学の一学生選手でした。

その後、伊調選手は、卒業迄は、大学指導者の管理管轄下にあります。卒業後社会人となった時点では、その管理管轄体制が社会人として会社企業(ALSOK)のレスリング部の監督、指導者の管理管轄となるのが日本の企業スポーツの伝統的な構造と体制であります。本件は、先ず伊調選手が栄強化本部長よりパワハラを受けたと認識した事。次に同選手を指導している田南部コーチもパワハラを受けたと認識した事です。そして、両名は、どうして栄強化本部長からそのような行為を受けたのか。が問題の本質です。

筆者は、かつて20年間、NEC SPORTSの会社企業スポーツのスポーツ・アドミニストレイターとして長年の実践キャリアから申し上げている次第です。

 1.問題点、

至学館大学の監督である栄氏が日レス協会の強化本部長としての地位を得た事です。本来ならば、栄氏は、至学館大の監督職を今後も継続するのか、或は、ナショナルテイームの強化本部長職を取るのかの決断をすべきでした。

何故ならば、スポーツ・アドミニストレイターの視点で申し上げますと、至学館大から生活の糧(報酬)を得ており、強化本部長としても協会から報酬を受けていると理解できるからであります。この状態は、栄氏自身が指導者としてすでに業務上コンフリクト(利害の矛盾)を起こしているのです。

協会の本部長としての職責がバランテイアー活動であるとは到底考えられません。若し協会の本部長職が無給であるとするならば、栄氏には、協会の指導、管理責任の重責は問えなくなります。つまり、これは栄氏の問題ではなく日レス協会の伝統的な組織的構造と体質に起因していると考えられます。

②次の問題は、日レス協会から栄氏へ強化本部長としてのオファーがあった時点で本件をマネージメント出来る人材が双方に居なかったと思われる点です。栄氏にオファーがあった時に所属大学側の意向と自らの意思を明確にしていればこのような問題は、起きなかったかと思われます。

或は、栄氏か大学側、或はその両方が両職責を手に入れる事がメリットと考えたのかも知れません。

この度の本件に関して協会側、大学側、マスメデイア記事では、誰もがこの重大なポイントを指摘、触れないのはどうしてでしょうか。単に気付かなかったとは考えにくのですが。

③さらに、伊調選手を指導している田南部コーチは、日本体育大学の指導者で在り、日レス協会の男子強化コーチでもあるとマスメデイアは報じています。此れが事実なら、本件は、別の大きな問題を協会側、同コーチ側及び所属大学が何かを意識的か無意識的か見過ごしてしまっている事に成ります。或は、何らかの理由で黙認していたのか、という事です。

それは、伊調選手が至学館大学を卒業して社会人となった時点で所属、選手資格、指導者、等の告知、情報公開を何故所属会社企業、日レス協会は、行わなかったのか、という事です。

通常、日本人選手が日本の大学所属から会社企業所属に移籍しますと、マネージメントは、企業会社の所属部が運営管理する事に成ります。伊調選手が現在所属する会社企業は、ALSOKと理解しております。ALSOKには、女子レスリング部が設置され、監督も存在します。伊調選手の練習拠点は、ALSOK社に存在し指導者も確保され、日レス協会のみならず、実業団連盟にも選手登録がなされている筈です。そうでないなら、日レス協会の管理責任とALSOKの運営管理責任が問われるわけです。

伊調選手が所属するALSOKと田南部氏との関係はどうなっているのかという事です。

伊調選手が信頼して指導を受けている田南部氏は、ALSOKが雇用しているかどうかが不明瞭。また、ハッキリしない理由は何なのか。

此処で田南部氏の職責は、日体大に所属する指導者であり、日レス協会の男子強化コーチです。その立ち位置の田南部コーチは、何故女子強化選手、ALSOKの会社企業所属、登録の女子強化選手を指導出来るのかは、現時点で告知されていません。

しかし、この事は、スポーツ・アドミニストレーションに於いて重要且つ、明確にしなければ組織としてのガバナンスが維持できないのです。

この問題は、田南部氏が日体大の組織で在れ、日レス協会の組織で在れ、各組織、団体に所属する者として遵守しなければならないルール、指導者倫理がある筈です。何故職責、責務以外の女子選手を田南部氏は、指導していたのかをこの度、誰もが語らない事に強い疑念が残ります。筆者は、何か見落としているのでしょうか。

また、伊調選手が田南部コーチに指導を個人的にお願いしたのか、田南部氏が伊調選手にアプローチしたのか、この所は、重大なファクターであります。この二人の関係は、誰かがオーソライズ(権限を与えなければ)しなければ成り立たないのです。誰かが田南部氏に許可、権限を与えたのであればその時点で田南部氏は、断るか(男子強化コーチであり、日本体育大学の指導者である事を理由に)、或は、依頼書を要求するべきであったのです。

田南部氏が所属する大学には、スポーツ・アドミニストレイターの肩書を持たせた担当者がいるようですが、大学指導者に対する指導、運営、管理が全く出来ていない、或は出来る能力がないのに肩書だけを付与させた見せかけだけの肩書であるのかも知れません。

⑤田南部氏は、伊調選手のバランテイアー指導者なのか、何処から生活の糧(報酬)を受けているのか。これが、明確であれば答えは自ずとして出て来ます。田南部氏には、伊調選手の指導者として明快な依頼書、或は同意書があるはずです。依頼書が発行されているなら、その中に必ず職責、責務に対する対価も明記されている筈です。この部分に付いても、日レス協会の会見では、一言も述べられていませんでした。

この書き物もない田南部氏が個人的理由でこのような過去の状態を維持していたのなら、これは、彼の越権行為以外の何ものでもありません。組織の人間としては失格であり、非常識極まりないと指導者として断罪されてもおかしくないのです。栄氏のパワハラ行為を批判する以前の問題であります。

この問題が伊調選手、田南部氏、双方から明確に事情聴衆し、公表しなければ、栄氏へのパワハラ云々の判断と会見は甚だ片手落ちではないでしょうか。伊調選手にも重大な問題があるのでないかと推察します。明らかに不明確、不明瞭なファクターが未確認過ぎます。

筆者は、上記問題点のファクト(事実)が明快になれば、本件の問題、事件は、自ずと明快な結論と対処法が整うと考えます。これらファクトが、現在出ていない前に謝罪会見を行うとは、日レス協会のレスリング・アドミニストレーションのレベルを問われても仕方ありません。

 

 Ⅲ.日レス協会の謝罪会見での不可解な発言、

此処で先日の日レス協会の謝罪会見に於いて、筆者は不可解な発言をした馳(はせ)副会長の補足コメントが気になりました。

それは、本人伊調馨は、「そろそろ身体を動かしたいので練習場を確保して欲しいとの申し入れがあった」とのアナウンスを日レス協会の会見で馳浩副会長(元文科大臣、前日体大理事、現衆議員)が、松浪協会副会長(元国会議員、元文科副大臣、現日体大理事長)同席で補足された事です。これは、視聴者からしますと何故馳氏がこのことだけを補足発表したのかです。

 どうして、伊調選手は、会社側に「練習会場の確保」を申し出たのでしょうか。これは素朴な私の疑問です。まさか、ALSOK社には、練習場もなく、選手達を渡り鳥させて広告塔としてのみ利用、活用しているのかとふと頭によぎりました。日レス協会は、このような会社企業にレスリング部の設置、登録の許認可を出したとは信じがたいのです。

嘗て、筆者は、企業スポーツのアドミニストレーターとして業務を遂行致していました時に、会社企業の最上層部から難儀な問題が舞い降りて参った当時の事が蘇りました。それは、冬の競技スポーツ種目の1人の有名なメダリストの件でした。

現在の公益法人日本スケート連盟(略:日スケ連)最高責任者(国会議員、政治家、元選手)とその秘書が会社企業に押しかけて来て、同選手の面倒を見て欲しい旨を最高経営者におねだりしたのです。本件に付いて私の意見を求められたので、私は、運営、管理者として「当社には、同選手が在籍する部がない事、予算も大幅にアップしなければならなくなるのでお断り致します。」と回答したのを鮮明に覚えています。但し、会社がお断りできない相手でしたら方法論としては、ペーパー競技部を設置申請、登録してそこに所属して頂き、協会登録をされては如何ですか。本件は、日スケ連から持ち込まれた件なので、練習施設等は先方が準備する事を条件とされてはいかがでしょうか。そして、予算は、広告塔としての役割が主体になるのでしょうから、宣伝部の予算でお願いされると問題ないでしょうと申し上げました。結果そのような運びとなりました。

しかし、本件を持ち込んで来た国会議員とその秘書は、選手のスポンサーを見つける事だけが真意でない事は明白でした。政治家が大企業との関係を構築、期待する忖度がそこには働いているので、本メダリストを政治活動のツールにしたと、私は今でもそう認識しています。

よって、この度の日レス協会の会見の場で、馳国会議員が唐突な伊調馨選手の補足コメントを持ち出した時に、私は、かつての政治家と企業スポーツの関係、競技スポーツの組織・団体に政治家、国会議員がやたらとポジションを欲しがる日本のスポーツ界の悪しき伝統をこの度の記者会見でも拝見したと感じた次第いです。 オリンピック招致活動の政治家の目的にも似ていますね。

スポーツ・アドミニストレイターの視点で申し上げますと、事の次第は、単純なのですが、それを誰かが複雑怪奇にしてファクトを隠蔽している所をマスメデイアがスキャンダラスに商品化している構図が透けて見える次第です。スポーツ・ビジネスの視点では、伊調選手の商品価値が競技による実績にプラス国民栄誉賞という付加価値が政治的に加味されたことで跳ね上がっている証しでもあるかと思われます。

伊調選手しかり、吉田選手しかり、彼女らは、一日も早く現役を続行するのかしないのかの判断を告知する事が社会に対する責任でもあると思われます。何故明言しないでCM活動に精を出すのでしょうか。

これは、個人の問題ではありますが、「飛ぶ鳥跡を濁さず」との諺がある事を老婆心ながら付け加えさせて頂きます。読者の皆様には、どのように映っていますでしょうか。

 大切にされるべきは、選手生命です。しかし、選手側の自己管理能力の有無もこの度の問題の大きな要因になっているのも確かだと考えられます。

 

文責:河田弘道

スポーツ・アドミニストレイター

スポーツ特使(Emissary of the SPORT