K'sファイルNO.131:東京五輪を迎える日本国の試練(3)
無断転載禁止 毎月第二、第四木曜日公開予定
読者からの便り
K'sファイルNO.130、拝読致しました。昨日東京五輪の延期が発表されましたが先生が今回の記事を執筆されている時点では延期は未定だったと思われます。IOCは当初、延期は視野に入れないと言うスタンスだった上に日本国内でもJOCの山口香理事が延期すべきと発言した事に対して同じJOCの山下泰裕会長は「開催に向けて力を尽くすべき。(山口香理事の)一個人の発言であっても(延期の話は)極めて残念」と述べ、山口理事を牽制したと聞いております。
先生がお書きになっている様に2021年夏までにウイルスが消えて無くなっているという保証は無い訳ですし、約70%の国民が「五輪開催はやめるべき」と意思表示をしていると言う背景を考慮すれば「延期」と言う未練を感じさせる措置では無くて即刻中止を宣言すべきだと存じます。そうでないと来年の今頃にIOCやJOCの発表するであろう色々な情報に国民が振り回され徒労に終わるだけの様な気が致します。また、組織委員会は、総額900億円とも言われる東京五輪延期に拘る返金無しのチケット代のお金の流れに付きましても、私たちに理解しやすい方法で情報公開して頂きたいです。それでは失礼致します。読者より
目次
■一夜にして崩壊した日本側の思惑
東京五輪の主体主は四層構造
大本営招集は誰の指示
ドイツ人辣腕弁護士の策略と罠
バッハ会長のぶれないコンセプト
■スポーツ・アドミニストレイターの視点
東京五輪開催のプレデイクションは10%か
■筆者の素朴な疑問と私見
2020年4月9日、 木曜日 公開
■一夜にして崩壊した日本側の思惑
2020東京五輪の主体主は四層構造
2020年3月19日午後10時の時点、自民党総裁の安倍晋三氏、東京都知事の小池百合子氏、東京五輪組織委員会(TOCOG)会長の森喜朗氏は、「東京五輪は通常通り開催します」と強硬な姿勢を崩していませんでした。しかし、それを証明する根拠が必要でしたが、誰も答える事が出来なかったのです。これは、彼らを個々に支える専門家の参謀が不在か怠慢である事はもとより、本プロゼクトには本来有るべきはずの招致の為の大義が無かった事を物語っていると思われます。政治家達は、専門知識、実践経験のない方々なので84ロス五輪(LAOOC)のP・ユベロス委員長のような政治家であり実務キャリアが豊富な真のスポーツ・アドミニストレイターではない事がこの様な危機となった時に露呈してしまったと言えるでしょう。
IOC会長は、「本五輪開催の是非に付いては、WHO(国際保健機関)の指導、指示に従う」と他人事のようにぼやかしました。開催都市の東京都知事は、「開催しないなど全くありえない」と断言し、東京五輪組織委員会の会長は、「予定通りに開催する方針に変わりない」と、開催国日本政府の安倍首相は、「完全な形で開催します」とどれも不明瞭な言い回しで責任の所在も根拠も明確にしない無責任な政治家ならではの発言でした。しかし、日本時間の3月21日、米国時間の20日付のワシントンポスト紙のデジタル版が世界に配信したそのタイトルは、「Shut the Olympic Games down」By Sally Jenkins Sports Columnist March 20, 2020 at 2:55 p.m. EDT東京五輪の即時中止求める」でした。
それまでは、IOC、電通、TOCOG、東京都、政府と水面下で会合、意見交換、腹の探り合いと「強行開催、延期、中止」かの激論が交わされていたのは間違いのない事実でした。いみじくもこのワシントンポスト紙の記事は、上記関係者達の強い自己主張に対して、ゲームオーバーの氷水を頭に浴びせたに等しい強烈な劇薬であったと思われます。その結果として、この劇薬は、国内外の五輪関係者達、世界各国のアスリート達に発言する勇気を与えたのです。その勇気ある発言は、地球の裏表の世界各地から共鳴する声が声高に、それはまるで東京五輪延期、中止の進軍ラッパとなり大きなパワーを醸成し、優柔不断な判断、決断できないIOC幹部達をシェイクアップさせた、これはまさに「文は武より強し」を証明したかのようでした。
その証は、IOCのバッハ会長の「4週間以内に結論を出す」との発言を誘引したのだと筆者は確信した次第です。この発言を軸に、それまで水面下で討議、議論、意見調整をして来た関係者達は、お上(IOC会長)の顔色が変わった事に気付いたのだと思われます。そこでTOCOG、JOC、東京都、日本政府の責任者達は、それまでの強行姿勢の言動と態度を一変し、極端なまでものトーンダウンを突然起こしたのでした。それまでの日本側の各組織・団体、政府の厚化粧をした政治家達の言動は、毎度おなじみの空元気で在った事を世界中にさらした次第です。
これにより日本側の政治家達は、狼狽し、バッハ会長に先手を打たれまいと内閣総理大臣自らイニシアチブを取ろうと一歩前に出たのでした。バッハ氏は、この動きを誘引させる為に「4週間以内に結論を出す」と先手の駒を指し日本の政治家達をトラップ(罠)に追い込んだのでないかと筆者は読んだ次第です。
多分K'sファイルの読者の皆さんは、それまで国民世論の調査結果などに見向きもせず、強気で聞く耳を持たない運営管理者達のあの態度は、何だったのかと驚嘆したのではないでしょうか。これが日本の政治家達の本性なのです。そこには、情報公開できない理由が焦りとなっていたのかも知れません。
大本営招集は誰の指示
その直後の3月24日、大本営の総理官邸に小池百合子都知事、森喜朗組織委員会会長、橋本聖子五輪担当相達は、安倍晋三首相の元に集合し御前会議とマスメデイアは色めき立ったのです。しかし、実は、IOCのバッハ会長の呼び掛けに対する電話会談が行われたようでした。勿論、このような場合には、電話会談を行う前に双方の意見の調整、落としどころ、等を事前に事務折衝を済ませておくのが普通です。そして電話会談は、双方リスペクトした形式的な体裁を演出する場と申し上げた方が判りやすいかと思われます。これは、丁度ワシントンポスト紙が劇薬を投げ入れてから4日目の出来事だったのです。
その後、安倍首相は、「2020東京五輪は延期。2021年夏までに「完全な形で開催をする」事に成った。中止は在りません。バッハ会長と100%合意しました」と大見得を切った次第です。
ドイツ人辣腕弁護士の策略と罠
IOC会長のバッハ氏は、合意はすれども「延期及び開催は来年夏までに」とは一言も言っておりません。そして何と開催国の内閣総理大臣に本会談のスポークスマン役を務めさせた次第です。本来ならばこのような会談は、IOCのバッハ会長、TOCOGの森会長、東京都知事の小池知事、オリンピック担当相の橋本氏、そしてJOCの山下泰裕会長が同席で電話会談を行うのが本来の姿です。その後で会談の内容は、プレスカンファレンスの場で出席者達が同席して行われるか、森氏が会見をすることが筋であったと思われます。また、IOC側は、バッハ会長が会見をするのが正論です。
此処には、バッハ氏の大きな別の思惑に対する目論見が筆者には透けて見えたのです。しかし、この度の電話会談は、バッハ氏からの要請というより実は日本国の内閣総理大臣の安倍晋三氏が前面に出る事を望んだことに、バッハ氏のしたたかさと策士を証明した場面でした。これに気を良くした安倍晋三首相は、「完全な形で開催します」と一国の総理大臣が軽々しく発してしまった次第です。この「完全な」とは、何をイメージして述べたかは定かでありませんが、後に負担とならない事を願う次第です。これは、きっと抜け差しならない高額な財政負担を背負い込むであろうと推測するのが自然な成り行きと考えられます。
バッハ会長のぶれないビジネスコンセプト
ここからは、大変辛辣な解説になるかと思われますが、率直に申し上げます。
IOCに取って日本側の組織・団体・機関の役割は、①東京五輪組織委員会は金集めと現地の運営会社として、②東京都は場所の提供と出資、③日本政府は東京五輪開催に於ける財務保証の為の担保と位置付けられた。これらは、バッハ氏の東京五輪招致に関しての基本的なビジネスコンセプトである事は明らかです。しかし、この様なアドミニストレイション手法は、対日本国、国民に対して無礼千万であると言わざるを得ません。IOCは、全ての決定権を有して、日本国はその事業を保証している運営国に他ならないのです。即ち、日本は、IOCバッハ会長の羊ということなのでしょうか。
残念ながら東京五輪招致活動時に於いてIOCのバッハ氏の戦略、戦術を見破る人物が日本側に居なかった事に起因していると思われます。それがために日本側は、現在のような泥沼に引きずり混まれても、前のめりになっているが為に誰もが冷静さを失い今尚気付かないでいるか、招致を自らの手法(疑惑を招く手法の意味)で引き寄せた弱みを握られて身動き取れない状態なのかも知れません。
オリンピック開催国の理念、コンセプトは、一体何なのか、そしてこれ以上国家、国民に負担を強いないためにも自らブレーキを掛ける勇気ある判断力と決断が求められていると思う次第です。此のままでは、負のレガシーを山積することとなると思われます。
バッハ氏は、財政的な支援、保証の担保と位置付けている安倍首相に対してIOCとして最高の敬意でこの度は「花を持たせた」形を取ったのだろうとお見受けいたしました。この事は、後に海外の有力紙がIOCは日本側に「花を持たせた」の表現で掲載したのだと思われます。ところが、このIOCからの花は、2021年延期開催までに要する経費約1兆円とも言われる気が遠くなる追加予算が必要不可欠となり、この費用が安倍晋三氏への花代の請求書にすり替わる仕組みである事は疑いの余地もありません。それは、「延期」をリクエスト(言わされた)したのは他の誰でもないあなた(安倍首相)ですね、と切り返されるのが落ちでしょうか。
現時点に於いては、東京五輪が延期となった事は決定済。3月30日に延期五輪の開催日は、2021年7月23日に合意したのです。これは、延期発表後わずか6日後の出来事でした。日本側は、このような人類、世界を揺るがしている疫病環境の中で開催日の決定を急かす必要が何処にあったのでしょうか。
2021年7月23日に開催されるかどうかは、不確定要素が山積しているのです。その最大の問題は、IOC加盟206カ国が2021年開催時に新型コロナウイルスCOVID-19が消滅しているとは常識的に判断できる状況ではありません。また、ウイルスを撃退する薬、予防ワクチンも存在しない現状で「完全な形で開催します」と断言した我が国の総理大臣の発言として軽率ではなかったかと疑わざるを得ないのは筆者だけでしょうか。
■スポーツ・アドミニストレイターの視点
現時点のプレデイクションは10%か
2021年東京五輪開催の可能性は、現時点の状況、環境を鑑み10%のプレデイクション(Prediction、予測)と言えるでしょうか。これは、IOC、JOC、TOCOGが延期開催できる根拠を未だ明確にしていない事が最大のポイントです。プレデイクションは、開催する為に必要不可欠な要素を数値化することで、その数値化したパーセンテイジが高くなる程確率が上がる事を意味しています。そして、これらの数値を世界に対して定期的に情報公開する義務と使命があります。
この様なプレデイクションは、米国の競技スポーツに於いてNFL、NBA,NHL、MLB、NCAA(フットボール、バスケットボール)と大変なじみ深い勝敗予測基準なのです。勿論、この予測には、両テイームの正確なスタッツ(統計的なDATA)を元にコンピューター処理をした数値結果を基にしたものです。
此処では、競技スポーツを「東京五輪組織委員会 対 新型コロナウイルス対策」に置き換えた場合のプレデイクションである事を先ず申し上げます。
その根拠設定の数値化に当たっては、例えば、最大のハードルであるIOC加盟206カ国の新型コロナウイルスの沈静化状態、観客、選手、スタッフ関係者の健康状態、治療薬、ワクチンの準備状況、ホスト国の沈静化状態、観客、選手達の入国後の感染者への準備態勢、等々を意味します。この数値化の数値が上がる事により、東京五輪開催のプレデイクションが高くなりより安全、安心の信頼度数が「完全な形の東京五輪開催」に近づくことを意味します。どうか安倍晋三氏は、このプレデイクションを計算されたうえで「完全な形で開催します」と読み切った発言であった事を願う次第です。
筆者の素朴な疑問と私見
筆者は、NO.131に於いての最大の疑問点は3月24日、大本営の総理官邸での御前会議とまでマスメデイアに揶揄される重大な会合の場に何故政治家達ばかりが雁首揃えたのかです。
何故新JOC会長の山下泰裕氏、アスリート代表者は、招かれなかったのかと素朴な疑問を抱いた次第です。此れでは、まさに2020年東京五輪の実態は「政治家による政治家の為の五輪開催」であったことを裏付けた何ものでもないと確信をしたのです。これでは、競技スポーツ、アスリート達、その代表者達の意見など全く取り入れられず、彼らへの尊敬の念も配慮のかけらも無い方々であると言わざるを得ませんでした。
つい先日2020年3月31日(火曜日、日本時間)16:15分にロイター通信社により配信された「東京五輪招致で組織委理事に約9億円、汚職疑惑の人物にロビー活動も」というタイトルで、何と東京五輪組織委員会の理事の高橋治之氏(元電通専務取締役)の実名が報じられたのも、東京五輪招致活動から今日までの問題に関わる裏舞台の顔触れが透けて見えて来るような気がしてならないのは筆者だけでしょうか。また同通信社によると森元首相(現東京五輪組織委員会会長)の団体に資金が流れている、云々が明記されていることからも時間と共に五輪招致活動の真の実態と闇取引に関わった可能性が高い方々の実名が、これから白日の下にさらされる日が来るのかも知れません。それが為にも彼らは、何としても東京五輪を開催させなければならない事が深層に抱えているようです。
それに致しましても、このように我が国の政治家達は、国内外のスポーツ関連事業及び各競技組織・団体の長の席を奪い、真のスポーツ出身者からスポーツ・アドミニストレイターが出現出来ない様な土壌を構築してしまっているようでは日本のスポーツ界に光明が見えて参りません。この実態は、まさに若い能力ある人材を潰している現実を見せられた気がしてならないのは筆者だけでしょうか。この様な現実の中で山口香氏(JOC理事、全柔連理事、筑波大学教員)は、未来ある若い世代に「東京五輪は延期すべきである」と毅然とした態度で指導者として、国内の競技スポーツ関係者の中で女性として唯一勇気を持って発言したことに対する評価はあってしかるべきだと思います。この様な人物が東京五輪組織員会(TOCOG)の中枢の役員として入っていない事自体が政治家達の偏ったスポーツ談合組織の形成を許している最大の要因の一つであろうと思われる次第です。
文責:河田弘道
スポーツ・アドミニストレーター
スポーツ特使(Emissary of the SPORTS)
お知らせ:NO.131は、如何でしたでしょうか。丁度先日ロイター通信社は、2020年東京五輪招致に関する黒い金脈に関する人物達を取り上げ、フランス当局のソースと取材内容を大きく打電しました。しかし、残念ながら日本のマスメデイアは、迷惑そうな紹介記事のみを掲載したようです。ロイター通信社の特ダネ記事は、本K’sファイルが丁度リマインドで掲載を始めた矢先でしたので大変奇遇に思った次第です。次回のリマインドは、闇の世界の会話をご紹介します。ご期待ください。