K'sファイルNO.96:今日のスポーツ電通の礎 84ロス五輪とは!

K'sファイルNO.96:今日のスポーツ電通の礎84ロス五輪とは!

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第二弾:公金を使わず 84ロス五輪成功のキーは何であったのか!

1.P.ユベロス氏の手法と決断力

①前回のあらすじ

84ロス五輪大会組織委員会(略:LAOOC)の委員長は、選考基準の公開や、選考方法の事前告知を経て、応募者600名の中から厳重な審査の基に選考されました。重要な選考委員会は、ロサンゼルス市民を代表する審査委員の選考に於いて、利害、利得を得る可能性の低い、その分野と社会、市民からリスペクトされている人物(マイノリテイを含む)がフェアネスを基に選出されました。勿論、審査委員に対する報酬は無く、日本的な第三者委員会とは異なり純粋な市民の代表が審査委員でありました。

2020年東京大会の組織委員会・会長は、どのようにして選考されたかご存知ですか。少なくとも私は、存じ上げません。

東京大会組織委員会は、会長の選考方法も情報公開も国民、都民にはなされず、いつの間にか現人物が鎮座してしまったような記憶しかありません。この事からも我が国は、グローバル化を声高に叫びながら実は伝統的な隠蔽体質と談合体質から抜け出せない悲しい現実が、21世紀の今日も尚、現存している証です。このような現状と体質は、いつまでも改善される事無く続いているという事の様です。

1984LAOOCP・ユベロス委員長の掲げた大義

P・ユベロス氏は、「このオリンピック大会開催では、アメリカ合衆国カリフォルニア州、ロサンゼルス市の公金である税金を1セントたりとも使わず黒字化する」と委員長就任時に掲げ宣言したのです

一方2020東京五輪組織委員会・会長の森喜朗は、就任時に「現在の開催に必要な予算では十分でない」と資金投入の必要性を声高に掲げ、まさにユベロス氏と対極のリーダーであったことを皆さんはご存知でしたでしょうか?何故、レガシーの必要性を声高に唱えて、即箱物の建設をむやみやたらと推進したのか?

③新しいスポーツ・ビジネスの理念と明快なコンセプト

P・ユベロス氏の着眼点を示すのに、分かりやすい有名な言葉があります。それは、「オリンピックに必要なのは、競技場でなく、その競技場に何台のカメラを持ち込めるかだ」と断言したのです。これは、まさにビジネス・アドミニストレイターとしてのクリエイテイブな発想の証しであります。P・ユベロス氏の新しいスポーツ・ビジネスの理念と明快なコンセプトとは、「権利=Right」を最大限生かす為の手段と方法に特徴がありました

そのコンセプトは、何かが「制限」されて初めてその「制限を制限すること」ができる。つまり「権利」の意味が生じることです。権利が与えられても、権利を持たない者との区別がなければ、やはり意味はないのです。権利の有無により区別が無いなら、なんとかして「差別化」を図って区別を作り出す事が必要であると考えたのです。権利を持たない者に対しては、制限を強くする程、その「制限を免除される権利自体の価値が高くなる」ことは明白です誰もが使えると言うのは、誰にも使えないというのと同じに、その使用自体には価値が生じないのです。

権利の重要なポイントは、「権利」という商品は物理的に存在しないのです一般の商品とは性格が異なる点に着眼したのです。

無体財産権」は、「知的財産権」とも呼ばれ、知的にしかその存在は認められないのです。その意味は、「権利=Right」の質、価値は、価格(お金)でしか評価できない」と言う事を実践して見せたのがユベロス氏なのです。

即ち、スポーツに権利ビジネスを持ち込んだのがユベロス氏のスポーツ・ビジネスアドミニストレイションの特徴なわけです。(以上、同氏のビジネスコンセプトより)

このようにP・ユベロス氏は、確りとした論理的なコンセプト基盤を持って実践された、いわゆる知的戦略、戦術家であったと思います。

2.ユベロス氏の成功の秘訣と着眼点

ユベロス氏は、「オリンピックに必要なものは、大きな競技場ではなく、問題は、その競技場に何台のテレビカメラを入れられるかだ」と断言したのです。

①一つ目の着眼点-

彼の視点は、スポーツ・ビジネスを如何にして実践し、成果を出すかの徹底したコンセプトが伺えます。それは、オリンピック自体をテレビ放送用のスポーツ・エンターテイメントとして位置付け、放送権利の売買を行うビジネスの道を開拓したのです。この大会以降、スポーツイベントの放送権料が右肩上がりを始めたのは、ユベロス氏の功罪のうちの罪の部分であるところと言えます。

②二つ目の着眼点-

スポンサーシップという形で民間資本を活用する事が、唯一の財源を確保する術であると位置づけた事です。そして、その為には、巨大な広告代理店(AdvertisingAgency)の協力とその活用方法に着目したのです。

重要項目の一つの民間企業から得るスポンサーシップに付いては、権利をより強固にするため、一業種一社制を取り入れた事です。これにより、スポンサー広告の価値はより効果的且つ、競争原理導入でより効果が高まる事を期待したのです。(例:車のスポンサーは、世界で一社のみ)

広告代理店には、ビジネス的な権利を与える代わりに、ロス大会を成功させるために必要最低限のギャランテイー(保証)方式を取り入れて、大会成功の財政的な基盤を担保させた事でした。その為には、代理店を先ず選考、指名することを最優先としたのです。

ユベロス氏は、当時日本がバブル経済を迎え、日本企業がまさに海外にマーケット(市場)を求めている事を強く認識していました。そのため、ターゲットとして日本の広告代理店「電通」を心の底では期待していたのではと推測します。しかし、誰にも心中を明かさず、彼の賢さが伺えます。そこへ、まんまと飛び込んでいったのが電通でしたP・ユベロス氏に直接、接触を求めて行ったわけです。(本件に付きましては、次回以降に予定)

3.何故広告代理店に電通を選定したか

P・ユベロス氏と広告代理店電通との関係は、元々縁もゆかりもありませんでした。よって、ユベロス氏は、最初から電通ありきで動き出したわけではなかったのです。ユベロス氏のビジネスコンセプトに米国の広告代理店制度(AE制度)は、不都合であった

AE制度とは

米国の広告代理店制度は、日本とは異なり非常に厳しい制度の下で成り立っている業界です。その最大の特徴は、米国の広告代理店は、AEAccount Executive制度が法律によって守られており、即ち一業種一社制度の事なのです。一業種一社とは、一つの広告代理店が同じ業種の代理店になれない事を意味しています。例えば、A広告代理店がフォード社との代理店契約をした場合は、同じカテゴリーのトヨタ社の代理店にはなり得ない事を意味します。

つまり、米国の広告代理店ではスポンサーセールスに於いて、ユベロス氏が考えるような競争原理を活用する事が出来なかったのです。それに比べて、日本の広告代理店制度は、AE制度がなく各広告代理店が一業種一社の枠を超えた一業種複数社制度であったため、好都合であったのです。即ち、日本の広告代理店は、例えば車の業種に於いてトヨタ、ホンダ、日産、マツダ、鈴木、等と何社でも取り扱えるという意味です。丁度、この時期のIOC規約、規則には、この種の規約、規則が無く、今日のIOCに於けるこの種の規約、規則は、84ロス五輪を参考に85年以降に出来たルールなのです。

電通内部の葛藤

電通内部に於いては、一枚岩で在った訳でなく電通組織の体制、体質から内部での競争、闘争は激しく、常に群雄割拠の中で、やるかやられるかのパワーゲームが横行していました。つまり、戦略的な内部組織構造であったわけです。

此れを称して、業界では、電通方式と呼ばれています。これは、筆者が所属していた当時の西武、国土計画の会社・企業コンセプト(企業内に於ける競争の原理原則を活用)とも酷似しています。この企業コンセプトを取り入れることは、企業内外に於いてハイ・リスクマネージメント並びに危険なモラルハザードを起こす要因になる可能性を含んでいる事を忘れてはならないのです

既に当時から米国に於いては、各競技スポーツのトップアスリートを内外からかき集めたスポーツ・エイゼンシ―(スポーツ代理店、IMG社:International Management Group)を立ち上げ活動し始めた時期であったのです。電通内部の本プロゼクトのオリジナルグループのプロデユーサーは、服部庸一氏を中心とした営業企画室グループでした。しかし、別の社内グループのリーダーは、本来のグループの機先を制するが如く、このスポーツ代理店のCEO(最高経営者)のマーク・マッコーマック氏(Mark McCormack)を対LAOOCP・ユベロス氏のネゴシエーター(交渉人)とするべく動き出したのです。

しかし、この動きの情報を既に察知したP・ユベロス氏は、電通IMGに対して“NO”の警告を発したため、IMGを前面に立てようと策を弄した電通内の別のプロデユーサーの画策は、事前に潰されたのでした。後にこのプロデユサーは、電通を離れて何故か体育学部のある私大に移籍。これにより今迄以上にユベロス氏と服部氏との関係は、絆を深め、服部氏は社内の闘いを制していよいよ本格的な交渉へと駒を進めたのです。

4.LAOOC電通に与えた対価とは

ユベロス氏は、さすが一筋縄では行かないビジネス・アドミニストレイターであり一流のネゴシエーター(交渉人)でもあったのです。ビジネス交渉が具体的に動き始めたのは、確か1979年秋ではなかったかと思われます。此れは、電通側の焦りが、プロのネゴシエーターであるユベロス氏の罠に入っていくことを意味します。(本件に付いても、次回以降に予定)

此処で付け加えますと、LAOOCの唯一の総責任者は、P・ユベロス氏であり、対電通に対するネゴシエーターでもあった事がこの人物の強烈な個性とパワーを感じさせる次第です。

此処が20東京五輪大会組織委員会の会長のような神輿に鎮座して、全ての実務は、他の政治家、役人、企業人にやらせる手法とは異なり、P・ユベロス氏は、真に全ての指示、最終決断を自らの責任に於いて実行、遂行するビジネス・アドミニストレイターだったのです。

①最終的に、ユベロス氏が電通側に手渡した権利の中身

1.公式マスコット、エンブレムを使ったライセンス権

2.公式スポンサーとサプライヤー

3.アニメ化権

4.入場券取り扱い権

以上が合意事項であり、放映権、入場料収入権は、与えられませんでした。此れもユベロス氏のしたたかなプロのネゴシエーターの一面だったと思います。

大義達成の為の準備

ユベロス氏は、本大会委員長を受託した後、早速に手掛けたのが大会を成功させる為に必要な自身が掲げた大義を如何にクリアーするかでした。

それは、「公金は使わない、黒字にする」のハードルを越えなければ自身のコミットメントを解消できないことを十分に承知していたのです。そこで先ずは、予算を概算でなくアクチュアル(本当に必要)な数値を設定したのです。この数値(金額)目標を電通にコミットさせれば、その時点でユベロス氏の勝利となり、ゲームオーバーとなると試算して、対電通とのネゴシエーションに臨んだのです。

5.P・ユベロス氏のキャリアと頭脳センスの勝利

ユベロス氏は、当時バブル期を迎えていた日本経済に目を付け、広告代理店をLAOOCの公式広告代理店に指名したのです。日本の広告代理店は、電通でした。何故博報堂、その他でなかったのか。(次回以降に予定)

GIVE&TAKEの取引成立

ユベロス氏と電通の間では、双方丁々発止のネゴシエーション(交渉)が積み重ねられ、最終的に、ユベロス委員長は、電通の提示に満足し、組織委員会LAOOC)は電通側のギャランテイー(保証)を担保し、リスクマネージメントを回避、スポーツ・ビジネスとしては、ここでユベロス氏の一大勝利となったのです

即ち、P・ユベロス氏が提示した権利(1,2,3,4)を電通に渡す対価としてLAOOCの赤字の可能性は、無くなった事です。此れで、ロス大会開催前に大会予算は、電通により保証(ギャランテイー)を担保させ、後は、黒字化を考えるだけとなったのです。

最後に黒字化の最大の要因は、ユベロス氏が最後まで電通側とのネゴシエーションから切り離して渡さなかった、TV放映権、及び入場料収入(テイケット収入)が彼の最後の国民、州民、市民に公約した黒字化の要因となったのです。そして、本黒字となった財源(440億円)は、全てカリフォルニア州、ロサンゼルス市の社会厚生施設に還元されたのです。

このように三十数年前に、P・ユベロス氏に寄って公金を使わず、民間資本のみにてオリンピック大会を招致、開催したスポーツ・ビジネスアドミニストレイションの実例を完成させていたのです。

以上「河田弘道のスポーツ・アドミニストレーション論:現代のスポーツ・ビジネスの巨大化原因とその歩み編より抜粋~」

P・ユベロス氏は、本スポーツ・ビジネスアドミニストレイション手法により、市、州、連邦の政治家達の利権へのつけ入る隙を与えなかった事で余計な利権絡みのスキャンダル、疑惑、等からも大会組織委員会並びにロス五輪をクリーンなイメージを確保した事は隠れた最大の功績として、今も尚関係者、市民、州民から称賛されている次第です。また、此の事は、無駄な予算、意味不明な人件費、諸経費の節約に直結していたのでした

そして、同氏のアドミニストレイターとしてのセンスは、此れだけにとどまらずロサンゼルス市民に対して財務状況を定期的に情報公開する気配りを忘れなかった事です。これは、彼が組織委員会・委員長に任命された時に選考委員会、組織委員会との間で取り交わされた「契約書」を誠実に遵守した証しでもあるのです。

20東京五輪組織委員会・会長には、責任者としての所在を明確にする契約書なるものがあるのであれば、公開する義務があります。何故ならば、20東京五輪組織委員会は、公益財団法人である事から明文化された書面があってしかるべきだと筆者は思う次第です。

我が国には、残念ながら2020年東京大会開催に於けるロードマップを完成できるスポーツ・ビジネスアドミニストレイターが居なかった、という事ではないかと思われます。

 

文責:河田 弘道

スポーツ・アドミニストレーター

スポーツ特使(Emissary of the SPORTS

お知らせ:次回は、何故電通P・ユベロス氏に近づけたのか、如何にして電通は、今日の世界のスポーツ・ビジネス(オリンピック、ワールドカップ・サッカー、世界陸上、等)を一手にできたのか、そこには、黒衣の参謀の戦士が居た。華やかな舞台裏には、何かが匂い、何かがうごめき、そこには必ずひっそりとシャドーマンが寄り添っている。