NO.29 河田弘道の素朴な疑問:大学箱根駅伝は誰の物?PartⅠ.無断転載禁止

NO.29 河田弘道の素朴な疑問:大学箱根駅伝は誰の物? PartⅠ.無断転載禁止

 

 

大学箱根駅伝に興味を持った動機~

  1.企業スポーツにおいて現実との遭遇:

  大学箱根駅伝の組織、運営、管理に興味を持ち始めたのは、当時企業スポーツにおきまして、男女陸上競技部(長距離部門を含む)、男女バレーボール部、女子バスケットボール部、男女テニス部、ラグビー部の8競技をスポーツ・アドミニストレーターとして運営、管理をしていた時期からでした(1985~2005)。

  何故興味を持ち始めたかと申しますと、日本に於ける企業スポーツは、日本独自の伝統的な運営、管理を行って来たプロでもなくアマでもない、不思議な競技スポーツの組織、団体なのです。(またの機会に企業スポーツの特徴と実態をお届けする予定)

 当時からテイームスポーツとしてプロの競技スポーツは、プロ野球93年より開幕したプロサッカーリーグがあり、個人競技スポーツとしては、テニス、ゴルフ、ボクシング、等と現在は男女バスケットボールが加わりました。よって、プロの競技スポーツ組織や団体を持たない競技に取り組んでいる学生選手、高校生選手達は、最終的な生活の糧となる場所が企業スポーツとなります。そしてその延長線上にあるのが、世界選手権大会であり、オリンピックです。

 しかし、これもごく限られた選手しか所属できない厳しい世界であります。1984年からは、実質的に国際オリンピック委員会(略:IOC)の憲章、規約の改正があり、オリンピック大会には、プロ選手も参加できる事に成りました。

 これにより、日本における企業スポーツの伝統的な体質は、競技スポーツ組織、団体、選手達にも徐々に変化が見られるようになりました。しかし、依然としてプロなのかアマなのか中途半端なスタイルが解消されたわけではありません。

このようなスポーツ界の新しい流れの中で、日本の学生選手達の意識にも、以前と異なる思考が芽生え、段々と自分の意思を表現する様になっていきました。これらは、急激な海外からのプロ化の波にも大きな刺激を受ける事になり、歴史的な変革の時期であったのだと思われます。

 

 2.企業スポーツの栄枯盛衰、

  企業スポーツの特徴は、企業のビジネス業績に大きく左右されるという事とスポーツからの収益を求めない事です。1964年の東京オリンピック開催と共にスタートしました企業スポーツは、1990年前半から吹き荒れたバブル経済の崩壊によりまして、1995年をピークによりいっそう廃部、休部が加速し、それまでの企業スポーツの半数以上が消滅して行ったのです。

 特にそれまで脚光を浴びていました、社会人野球(都市対抗野球)、バレーボール界、バスケットボール界、テニス、ラグビー、等の企業名が消え去り、今日の状況をファンの皆様は、肌で感じて来られたのでないでしょうか。

驚く事に現在の大学生は、日本のオリッピック競技スポーツ選手達が長年会社、企業スポーツから支えられ、今日も支えられている事の知識と理解を持たないのが大半です。これも新しい世代の若者達の感覚とスポーツへの興味が多様化した証の一つなのかも知れません。

 

 3.企業スポーツへの学生選手の入社面談の現実、

  陸上競技Track & Field)は、日本が嘗ての華やかな時代を迎えていた長距離、マラソンが競技力レベルで大きく低下した今日、冬の華であったエリート・マラソン大会そのものの存在が薄れ、市民マラソンが主体の大会に移行している現状を皆さんも実感している事と思います。このような状況下で唯一、脚光を浴びているのが正月恒例の行事となりました「大学箱根駅伝」です。本駅伝競技は、日本にのみ存在します日本が生んだ競技方法のロードレースであります。

 

  1985年当時から、私は、NEC SPORTS(強化8競技)を会社側の強い要請で強化して参りました。その後、陸上競技部の強化を始めた頃、当時の長距離担当指導者からのスカウテイング、リクルーテイング計画書、報告書、面談書、等の最終レポートに目を通し、担当者から説明を受けていました。これらは、毎年の事でしたが、そのリストの中の大半は、大学箱根駅伝で活躍しマスメデイアで取り上げられている有名選手達のリストでした。

 特に、特注マークの選手達の面談レポートには、注目すべき内容が目に付いていたのも事実です。このような学生選手の多くは、所属大学で特待生として迎えられた学生選手達です。

 私が驚いたのは、「企業の大卒給与以上の現金が大学選手に毎月支給されている。大学側は、箱根駅伝で活躍させる為だと理解している」との内容を確認した事でした。学生選手曰く、「自分は、会社で競技が出来なくなった後、会社に残り勤めをするつもりはないので、退職金代わりに入社時に支度金として頂きたい。他の会社では、この条件を呑んでくれる複数の会社(実名を挙げて)があるので、この支度金が大きい方にお世話になります」と。面談者は、複数の異なる大学学生選手からこのようなリクエストを突き付けられていたのです。これは、即ちプロの契約時の契約金に置き換え、条件としていると受け取れました。

 このような学生選手を抱える大学は、当時も今も大学箱根駅伝の有名大学であります。現場の監督には、申し訳なかったのですが即答で“NO”の回答をし、「そのような条件で引き受ける会社、企業に行かれて下さい」と伝えた次第です。その理由は、会社側がそのような選手を入社、入部させるコンセプトとそのための予算を持ち得ていなかったからです。 

  日本の大学競技スポーツの学生選手が、個々の大学でどのような教育、指導を日々受けているのだろうか、大学競技スポーツは、どのようなアドミニストレーションがなされていてこのような学生選手が教育されているのか、とこの時期から、観察しながら強い関心を箱根駅伝と共に抱いてきました。そして、その後、ご縁を頂きまして日本の大学で2017年春まで、約10年間教鞭を取らせて頂き、上記問題を含めた日本の大学競技スポーツの実態を観察、研究致し学内外の状況と問題の本質に辿り着いた次第です。

 

 4.透けて見えた大学メジャー競技スポーツの部活動と実態、

  大学生の長距離選手のスカウテイング、リクルーテイングにおける、複数の大学陸上部、長距離選手(主に箱根出場が主眼)達の企業テイームへの入社条件と実態が明らかになっていました。私は、常に好奇心の眼差しで疑問を抱いていました。大学側が、このような学生選手達をどのようにして高校時代にリクルートしているのかに付きましても当然、大変興味を抱きました。

  勿論、本件は、長距離選手のみに限った事でなく、他の競技スポーツ男女(高卒、大卒)のリクルート活動に於いても多くの重要な問題と現実に直面致しました。此れらをきっかけに、私は、大学野球界、陸上界、バレーボール界、バスケットボール界、テニス、ラグビー、等を通して教育機関とその指導者、関係者と企業スポーツの関係性に付きまして20年間現場の状況と実践を通してその現実を実体験させて頂きました。

  これからお話させて頂きます、日本の大学競技スポーツ編では、このような高校、大学競技スポーツを経験した学生選手の受け皿として、企業スポーツがある反面、理不尽な教育界、一部指導者達の教育者としてあるまじき実態、そして大学競技スポーツに関与する内外関係者の実態、及びその組織、団体を理解して頂く事により、悪しき問題の根深さを知る事が出来ると思います。特にこの大学箱根駅伝における実態を覗く事で、より一層我が国のスポーツ社会の縮図を見ることが可能と思った次第です。

  読者の皆様には、大学競技スポーツと学生選手達の本来の姿の必要性を、関係する学内外の方々及びその組織、団体の実態を比較して頂き、この機会に考察して頂ければ我が国の大学競技スポーツの将来の方向性が展望できるのでないかと期待致しております。

 

                    文責:河田弘道

                 スポーツ・アドミニストレーター

                  スポーツ特使(Emissary of the SPORTS

*お知らせ:次回NO30からは、本論の前段となります「大学箱根駅伝は誰の物?」に付いての素朴な疑問を述べさせて頂きます。お楽しみに。